第15話 お泊まり会の終わり

「実はさ、話ずっと聞いてたんだ。ごめん」


 なるほど、だからそんなベストタイミングで入って来れたのか。


「どこから聞いてたんだ?」

「大体最初くらいから? というか僕、お風呂入ってないしね」

「え?」


 そう言われてよく見ると、確かに髪が濡れていない。

 はぁー、策士というか、腹黒いというか……

 雪男は危険、と心の中のメモに追加しておく。


「あ、僕のこと警戒してるでしょ」

「いやまぁ……聞き耳立てる奴は警戒されても文句言えないよね」

「確かに……」


 雪男は神妙そうな顔で頷いている。


「まあ、姉ちゃんの言う通りにしてあげてよ」

「今はまだ色々わからないけどさ、最後にはちゃんと答えを出すから。だから大丈夫……だと思う」

「確信してよ。不当な理由で姉ちゃんを泣かせたら、僕は君を殴ってしまうかもしれない」

「そうなったら、インドア派2人の醜い争いだな」

「でも、それでも」

「分かってるよ、冬乃を泣かせたら理由がなんであれお前に殴られる覚悟はしておく」

「君がちゃんと自分の心に従って出した答えなら別に殴らないよ」

「まあ、殴られても痛くなさそう」

「ふーん? じゃあ鍛えとく。ムキムキになっても知らないよ?」


 少し重い空気にはなったが、軽口を叩き合って緩和する。


「んじゃあ、真面目な話はここまでにして俗っぽい会話でもする?」

「それもそうだな、男子高校生なんだし」


 これが正しく友達という関係なのだろう。

 そこからは冬乃が帰ってくるまで、2人で仲を深めあった。



 そこから冬乃がお風呂から上がってきて、俺もお風呂に入った後、全員分の布団を敷いて並んで横になる。

 順番は雪男、俺、冬乃だ。

 雪男と俺が反対の方がいいと思うっていうことは伝えたのだが、冬乃が譲らなかったのだ。

 なんというか、先程の告白? を受けてからだと、前にもましてむず痒い。

 というかだいぶ意識してしまう。

 まあ、横に自分が好きと言っている美少女が寝ていて意識しない男子高校生はいないと思うけど。

 そんな中、冬乃は張り切って、


「お泊まり会は、寝る前に徹夜でおしゃべりするのが鉄板って聞いたわ!」


 なんて言っていたのだが、色々と疲れていたのかすぐに寝てしまった。

 すやすやと安心した寝顔はとても安らかで、すごく、こう、かわいい。

 変な気は起こさないけどね? 流石にそんな不義理はできない。


「姉ちゃんも寝ちゃったし、僕たちも寝よっか」

「それもそうだな」


 そうして、お泊まり会の夜は終わっていった……



 朝になって、駅まで話しながら歩いてきた。

 所謂、見送りという奴をしてもらったわけだ。


「それじゃあ、ありがとう。楽しかった」

「僕も楽しかったよ」

「わたしも楽しかったわ! 次は、マヒロと一緒に!」

「そうだな、次はマヒロも合わせて4人で話をしたい」

「楽しみにしてるわ!」

「名残惜しいけど、また学校で」

「またね!」


─────────────────────


雪男視点


 タイキを見送ってから、少し沈んでいる姉ちゃんに話しかける。


「姉ちゃん、昨日の夜は頑張ったね」

「聞いてたの!?」

「ごめんごめん」

「ど、どこから?」

「最後の方ちょっと聞こえただけだよ」

「もー! その反応は絶対嘘よ、最初から聞いてたでしょ!」


 そう言って、姉ちゃんはボコボコと僕の方を殴る。

 しばらく受けていたのだけど、


「ふ、普通に痛い!」

「ふん、謝らないわ!」

「……それにしても、あれで良かったの? もうちょっとこう、押せ押せでいけばもっと靡いたような気がするけど」

「タイキはあんまり覚えてないみたいだったけど、私はあの時色んなことを教えてもらって、すごく救われたんだから! だからこれでいいの!」

「そっか……」


 姉ちゃんは本当に強い。

 それは肉体的な強さじゃなくて、精神的な強さだ。

 何も考えてないように見えて(失礼)人のことをすごく考えているし、それで自分が傷つきかけても迷わず人を優先できる。

 それはきっと、何事にも変え難い精神的な強さなのだろう。

 そこまで考えておきながらふと気づく、姉ちゃんは肉体的にも強いか。うん。


「とりあえず家、入ろうよ」

「そうね!」


 そうして、僕たちはタイキを見送って、家に帰ってきたのだった。

 いつか、姉ちゃんの恋が報われることを祈って。

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