第14話 冬乃の想い

「たっただいま」

「お、おかえり」


 過去一ぎこちない挨拶を終えて、家に入る。

 結局、学校では仲直り? をする前に有耶無耶になってしまって、そのままだからだ。

 なんだか恥ずかしさが伝播して、俺まで顔を見れなくなってしまった。


「えっと、とりあえず用意してくる」


 部屋に戻り、着替えや歯ブラシなどの生活必需品を入れていく。

 必要なものを詰め終わったら部屋を出て、リビングにいるマヒロに話しかける。


「それで、今日もまた話があります」

「な、ななな、なに……?」

「俺とマヒロの同居のこと、冬乃と雪男にはもう話してもいいんじゃないかって」

「あ、私もそれは思ってた。うん、きっとあの2人なら大丈夫」

「そうだよな、じゃあ今日俺の口から同居のこと話すことにするよ」

「お願い」

「それで、ふと気になったんだけど、今日マヒロは何するんだ?」

「私はランクに潜り続けて、自分を見つめ直すことにする」

「お、頑張れ」

「うん! じゃあ、いってらっしゃい」

「はい、いってきます」


 最後、顔を見ていってらっしゃいといってきますを言えた。

 変に解決しようと意地になってただけで、案外一言二言日常会話をすればすぐに戻るのかもな、なんてことを思った。



 家を出て、雪男に指定された住所に着いた。

 時刻は6時ぐらいだろうか、結構電車に揺られてきた気がする。

 それにしても、


「家、でかくない?」


 漫画やアニメにあるようなバカでかい豪邸ではない。

 けど、周りの一軒家と比べたら明らかに二回りほど大きい。親がお金持ちなのかもしれない。

 とりあえず「着いたぞ」とメッセージを送ってから、インターホンを押す。

 反応はすぐに帰ってきたけど「ごめん、もうちょっと待ってほしい」というものだった。

 何かトラブルがあったのだろうか、もしかして親にダメって言われたとか……? なんて変な妄想を膨らませていたけど、「姉ちゃんの部屋が片付くまで後10分くらいだから待ってほしい」というメッセージがまたすぐにきた。

 すごくほっこりする理由でよかった。



「待たせてごめんなさい! どうぞ!」


 玄関がバンっと開いて、冬乃が手招きしてくれた。

 それに従って玄関に入り、そのままリビングをスルーして(誰もいなかった)冬乃の部屋に入る。

 軽く見渡すと、全体的に明るめの色で揃えられた家具が「女の子」を演出していて、質素ながらも優しくて可愛いと思える部屋だった。


「とりあえず、今日は雪男の部屋に泊まってもらうわ!」

「え? あ、雪男の部屋なんだ」

「僕の部屋だね、姉ちゃんの部屋はちょっと片付かなかった」


 ベストタイミングで入ってきた雪男が説明してくれる。

 というか、雪男はいつもちょうど今! ってタイミングで会話に入ってくるよな。

 何か特殊能力でもあるのだろうか。


「ばっ馬鹿! バラさないでよ!」

「ごめんごめん、とりあえず飲み物も持ってきたし話そうか」

「とりあえず、先に俺から一ついいか?」

「別にそんなターン制じゃないけど、とりあえずどうぞ」

「マヒロと俺はちょっと色んな事情が重なって現在同居してるんだ。あと、同じ中学校ってのは嘘。本当にごめん」


 自分で言ってて相当によくわからない状況だな、と困惑する。

 信じてもらえるだろうか。


「なるほど、はるほど、そういうことだったのね! 話してくれて、ありがとう!」

「やっぱりそんな感じだったんだね、こういう話を聞くと、ちゃんと信用されてるんだなぁってわかって嬉しいよ」

「信じてもらえて、良かったよ……言い出すの結構怖かった」

「それにしても、同居かぁ。たしかに、社会の目的にクラスでは言えないよね」

「そうね! だから、タイキが気に止む必要はないわ!」


─────────────────────


 そこからしばらくたわいもない会話をした後、


「話が盛り上がってて名残惜しいけど、お風呂沸いたみたいだから、一旦僕はお風呂に行ってくる」


 時針が8の数字を回った頃、雪男が部屋を出て行って、冬乃と2人になった。

 さて、どうしようか。

 2人になったら頑張って聞こうと思っていたことがあるんだけど。

 ただ、ここで聞かないのはただのチキンで卑怯者だと思ったから、よし、と心の中で気合を入れて勇気を持って口に出す。


「その、勘違いだったら、勘違い馬鹿野郎って言って欲しいんだけど、冬乃って俺のことがその……す、好き的な何かだったりするのか?」

「ううん、違うよ」

「あっごめんごめんあははそうですよね、いや何を勘違いしてるんだろ」

「大好きなの。あの時から、ずっと。わたしは多分、タイキが思っているより、タイキに救われたから」


 ぽんっと、優しく投げるように言われた冬乃の言葉の意味が掴みきれず、一瞬固まる。

 その後すぐ追いついてきた思考は、幸福と羞恥ももたらして、顔も赤くさせてきて、恥ずかしさをさらに加速させてきて、


「あっ、えっと……俺、は」


 俺は、なんだろうか。

 何か言わないとという気持ちはあるのだが、その先の言葉が全く思いつかない。


「あ、でも答えが欲しいとかいうわけじゃないの! まだ再会して2日なんだから、もっと後々でいいわよ!」

「なる、ほど、な?」

「でも!」冬乃はそこで一つ区切って「タイキの中で好きな女の子が出来たら、さっきの答えを教えてほしい。それが誰であれ、ね!」

「タイキは優しいから遠慮しちゃうかもしれないけど、それはわたしも辛いから! だからきっと、そのときになったら教えてほしいわ!」


 冬乃はどこまでも優しくて純粋な笑顔で、そう言った。

 俺に好きな人ができた時、か。まだ想像できない。

 けど、それは多分いつか訪れて、その相手は冬乃なのか、それとも……

 と、その時ドアが開く。

 雪男がお風呂から帰ってきたのだろう。なんというか、話の区切りがベストなタイミングで。


「雪男、上がったのね。じゃあ、次はわたしがお風呂にいってくる!」


 そう言って、冬乃は逃げるように、弾むように部屋を出て行ってしまった。

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