第13話 急に決まったお泊まり会

 一晩明けて、朝。

 俺たちは、すごく微妙な雰囲気で過ごしていた。

 もちろん、昨日変な雰囲気に流されて色々イチャイチャやったせいだ。

 もちろん、付き合ってもいない男女が許される健全な範囲までだが、結構、ね?

 ちなみに、朝食は早く起きた方が2人分のパンを焼くことになっている。

 とまぁそんなことより、この空気を何とかしないといけないわけで。


「ま、マヒロさーん。朝ごはん出来ましたよ……?」


 そう声をかけるものの、プイッと下を向かれて顔を合わせてもらえない。

 やっぱ、昨日のテンションはちょっとおかしかったよな……

 そう、自分を戒めながら、振り返りながら、気まづい雰囲気のままもそもそとパンを食べた。


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マヒロ視点


 は、恥ずかしくてタイキの顔が見れないっ。

 こんな態度は悪いって分かってるんだけど、というか昨日のこと自体私が悪いって分かってるんだけど、それでも……無理ぃ。

 変に甘えすぎたせいだ。私自身あんなことになるとは思っていなかった。


「服変えただけで、あんなに性格が変わっちゃうとか……」


 タイキに聞こえないように、ボソボソと独り言を溢す。

 同居を始めてから、私の知らない私がいっぱい見え始めたように感じる。

 今回のは、良いように言えば小悪魔的で、悪いように言えば甘えたがり、みたいな。

 というか、私って思ってたよりちょろいかも?

 でも、昨日のタイキも満更じゃないみたいだったし?

 でも、今話しかけられなくなってるのも困るし、本当どうしよう……

 ただ、やっぱ顔見れないよ!


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 結局、朝は気まずい雰囲気のまま、時間をズラして登校した。

 色々悩んだ結果、学校の昼休みにマヒロが女子たちに囲まれる前に話しかけることにした。


「ちょっと話があるんだけど、いいか?」


 しかし マヒロは にげてしまった!

 ……ってなんで!?

 いや、理由はすぐに分かった。昨日のことだろう。その話をしたいのに。

 とりあえず追いかけよう!


 思ったよりすぐに追いつけた。というより、ドアを出て手を伸ばしたら、普通にマヒロの腕に届いた。

 昼休み始まりということで廊下に人がたくさんいて、走れなかったからだろう。

 逃げられないように腕を掴む。

 ん? 腕を掴む……?


「あっ! ごめん!」

「いっいや、いいの、全然」


 お互い顔を赤くしながら言う。

 意識していなかったけど、手を掴む形になってしまった。

 腕、細かったな……ってそんなこと考えてたらまた変な雰囲気になってしまう!


「とりあえず、ここで話すのもなんだし、人少ないところに行かないか?」



 人気の少ないところ階段の踊り場にきた。

 まあ、入学して早々だから本当に少ないのかはわからないんだけど、雰囲気少なそうな場所だ。


「まず、なんで顔を合わせてくれないんだ?」

「だって、昨日のがどうしても恥ずかしくて……」

「昨日って、バッティングセンター女子力勝負の後に何かあったの?」


 すぅっと体が冷えていく感覚を覚えながら振り向くと、そこには冬乃がいた。

 な、なぜこんな人気のないところに。

 もしかして周りからはすごく見えてるとか? と訝しんで周りを見渡したけど、特にその様子はない。


「それで、昨日恥ずかしいって何の話?」


 そうやって、首を軽く傾げる冬乃。

 その姿はどこまでも純粋に、ただ気になったから尋ねているように感じた。


「あー、えっと……昨日、お泊まり会してたの」

「そ、そうなんだよなー?」


 結構危うい線のごまかしだと思うけど、大丈夫だろうか?

 というかもう、同居のことは冬乃と雪男に話してもいいのかもしれない。

 そのことについてまた今度、マヒロと話し合おう。

 ここ2日の関わりしかないが(昔遊んだのを除くと)信用にたる人物だと確信出来るし。


「ずるいー!! 私もタイキとお泊まり会したい!」


 ぐぐぐっと、冬乃が顔を近づけてくる。

 吐息が軽く額に当たって、顔が赤くなりそうになるけど、なんとかこらえる。


「今日は金曜日だし、今日の夜から明日までとかどうかしら!」

「いやいや! そんな、流石に悪いよ」

「うちは大丈夫だよ。家結構広いし、両親はそういうのに寛容だし。タイキ次第だね」


 ここでスッと出てきたのが雪男。

 というかなんで君たち姉弟は、俺たちがどこで話してるか特定してるんだ。

 レーダーでも持っているのだろうか。


「そうだ! マヒロはどうなの? マヒロも来てくれたらもっと楽しいかも!」

「ちょっと昨日暴走しすぎたから、今日はタイキと離れなきゃ……行きたいのは山々なんだけど、今日は自分を律して精神統一だよっ」

「マヒロがそこまでいうなんて! 昨日のお泊まり会でタイキと何をやったのか、すごく気になるわね!」

「そんなにたいそれたことは出来なかったから、安心してくれていいよ」

「むー……」

「そ、そんな不安になるようなことしてないって」

「じぃーー」

「ほ、ほんとに何もしてないって!」


 マヒロが珍しく、冬乃相手にたじたじになっている。

 何もしてないと言う割に、やましいところがあるイチャイチャしたからだろうか?

 何もしてないと言う割に、やましいところがあるイチャイチャしたからだろう。


「よし! とりあえず、タイキはうちにくるって事でいいかしら?」

「え? いや……」

「話したいこともあるからさ、ちょっと来てよ」


 流れについていけず困惑していると、雪男が耳を近づけて言ってくる。

 話したいこととはなんだろうか。

 ただ、何かあるならこの後別に予定があるでなし、下手に渋らず了承するのもいいかもしれない。

 実際この冬乃の家、行ってみたいし。


「じゃあ、着替えとか取りに帰ってから、うちにおいでよ」

「あぁ、うん、分かった。じゃあそうさせてもらう」


 そんなわけで、流されるまま唐突に今日の放課後、冬乃の家に泊まることが決定したのだった。

 まあ、冬乃の家ということは雪男がいるというわけで、それなら実質男友達の家に泊まりに行くみたいなものだし、大丈夫……だろう。

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