第7話 久しぶりの対決

 家に帰ってくると、マヒロが制服のままリビングでスマホを触っていた。

 自分の家のソファで女の子がくつろいでいるという状況に慣れない。

 だけど、この2日3日でマヒロの存在にはだいぶ慣れなから、顔が赤くなるまでは緊張してない……はず。


「ただいま」

「おかえりー」


 ソファから降りて、とことことこちらに駆け寄ってくるマヒロ。

 ああもう、嬉しいやら慣れないやらが続きすぎて気が紛れる。

 とりあえず、一つ言いたいことがあるんだ。


「ちょっと話をしよう」

「え……ど、えと、どうしたの?」


 そこまで重い話をしたいわけでもないのに、気を張っていると低く声が出てしまう。

 だからだろう、少しマヒロが怯えているのは。

 上手くいかない!


「ごめん、そこまで重い話じゃない」

「もー! びっくりした!」

「とりあえず、手洗ってくるよ」

「な、な、なんか、ふふ、夫婦みたいだね」

「言うほど夫婦っぽい? あと噛みすぎじゃない?」

「色々あるの!」

「そうですか……」


 俺も名前呼びの時そんな感じになったから、気持ちは分かるよ。

 「怒られるかと思った!」と、会話によく似た独り言を呟くマヒロを尻目に、俺は洗面台に向かった。



「じゃあ、これから今日の失敗を元に、幾つか決め事をしたいと思います」


 手洗いうがいから帰ってきて、マヒロと対面する。


「じゃあ、マヒロさん。何か俺に直して欲しいところはありますか?」

「ええっ、最初私なの? あの、私はもっと……いや、言わない!」

「遠慮なく言ってくれていいんだぞ?」

「うん、言えない!」

「い、言えない? まぁ、それはとりあえず置いとくとして、次は俺というわけなんだけど……学校で同居がバレるような行動は慎もう! 俺含めて!」

「はい、反省してます」

「俺も反省してる……そこで、何か言い訳を考えよう。というより、仲のいい友達という設定をもう少し肉付けしておこう」

「楽しそう」

「俺もちょっと楽しそうだと思う」



 そこからは、悪巧みをするみたいに俺とマヒロの仲をでっち上げていった。


「じゃあ、女番長をしていたマヒロの破けたパーカーを俺が直したことが出会いのきっかけで、そこからは裁縫対決を通して仲良くなっていったってことでいいか?」

「迷走してると思う」

「だよな、俺もいつ止めるか迷ってた」


 マヒロが番長って時点で相当変だし、裁縫対決とか意味分からないからね。

 まず、俺裁縫出来ないし。

 テンションが上がって変な方向に行ってしまっていた。

 マヒロヒロとは昔からこう言うことがよくあった。

 話のノリで訳の分からないとこまで行ってしまう……みたいな。


「それで、どうするの?」

「まあ、legend gunを通じて仲良くなった同中の友達でいいんじゃない?」

「私タイキの中学校のことほとんど知らないんだけど、大丈夫かな?」

「いや、俺がマヒロの中学に合わせるよ。また後で色々と教えてくれ。記憶力には自信があるからさ」

「私もタイキの中学時代知りたい」

「それはまあ……また今度話すよ」

「うん! ありがと」


 とりあえず、決めないといけないことは決まった。

 最初から真面目に話していれば10分もかからずに終わった気がするが、時計を見ると3時になっていた。

 入学式は昼までだったので、帰宅時間も合わせて大体2時間ほど話していたことになる。

 熱中しすぎだ。


「じゃあ! 話も終わったことだし、legend gunしよう!」

「引っ越しのゴタゴタでできてなかったからなぁ。大会も近いのに」

「大会……本当だ! 忘れてたわけではないけど、日にち見てなかった! 来週じゃん!」

「結構ヤバいよな。そこまで大きい大会じゃないとはいえ、出るからにはちゃんと練習しないと」

「そうだね。でも、とりあえず、今日の家事決めのための対決からしよう」

「そういやそんなことも決めたな」


 会話をしながらテキパキを手を動かす。

 マヒロヒロはlegend gunのことになるとスイッチが入るらしく、いつもよりテンションが高い。

 リビングにはテレビが2台設置してあり、それの接続を確認してゲームを起動する。


「忘れてるなんてひどい! グレネードの爆発で開始して、BO3でいい?」

「おう。負けても泣くなよ?」

「そっちこそ……だよ!」


 お互いほぼ同じタイミングでゲームのホーム画面にたどり着くと、マヒロが俺のルームに入ってくる。

 迷わず訓練場を選択して、戦いに行こうとするが、その前に一つ聞いておく。


「後これは余談なんだけどさ、上手くいかない時ってどうすればいいと思う?」

「どうするも何も、一つくらい上手くいかないことがあった方が、張り合いがあって面白いんじゃない?」

「面白い……か。ありがとう。よし、じゃあ始めるか!」

「望むところ!」


 遠くでグレネードが爆発した音を聞いてから、目の前の敵ヒロに集中した。

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