第6話 2回目の自己紹介

 大きく目を見開く冬乃と雪男。

 顔を赤くして耳を押さえるマヒロ。

 それに挟まれた俺。

 沈黙を破ったのは、雪男だった(いつの間に復活してたんだ)


「ええと、彼女さん?」


 雪男の言葉に、冬乃がわっと泣き出しそうになる。

 マヒロはさらに顔を赤くしている。

 あーもう色々めんどくさい状況になってきたぞ。

 とりあえず仲のいい友達だという説明をしうそをつかないと。

 本当は同居人なんだけど。

 この2人には早速友達になれそうな雰囲気を感じているし、騙すような形になるのは嫌だけど、背に腹は変えられない。他の人だって見てるんだ。

 いつか話せる日が来るといいな、なんて思いつつ、説明をするかんちがいをさそう


「すげぇ仲の良い女友達・・で中学の頃から親交があってさ」

「へー、そうなんだ。姉ちゃん良かったね」


 雪男が同調してくれる。姉ちゃん良かったねに関しては唐突すぎて意味わからんけど。

 すると今度は、冬乃がぱああと喜びの表情に変わり(本当に良かったんだ)、マヒロが泣きそうになっている。

 どういう表情筋してるんだよ。


「友達なのね!」

「ま、まあタイキとは友達だよ……? でも、」


 何かを口走りそうになったマヒロに軽くチョップをかます。

 でも、の先はなんて言おうとしたんでしょうねぇ。

 「あうっ」と頭を押さえるマヒロ。きっかけを作ったのは俺だけど、自粛してください。


「まあなんだ、すごく仲の良い友達なんだよ」


 なんとかゴリ押す。

 若干不審に思っても、クラスメイトが注目する前に察してくれ!

 いや、実際まだ彼女じゃないしさ!

 というか、嘘は言ってないし!


「ふーん、そうなんだ。姉ちゃんもとりあえずそれなら良いんじゃない?」


 そこで、先生が教室に入ってきた。

 ホームルームが始まるのだろう。


「「じゃあ、また放課後にね! ちゃんと説明してもらうから!」」


 マヒロと冬乃は同じセリフを吐いて去っていく。

 あの2人は初対面だろうに、仲がいいな。

 また放課後、ということは今日のうちにまた問い詰められるのだろうか。

 嫌だなぁ……

 クラスメイトが席につくと、ホームルームが始まった。



 先生の自己紹介や、軽い学校紹介で終わったホームルームの後、すぐに放課後になった。

 今日は入学式とホームルームだけなのだ。

 そして、またもや俺の机に3人が集まっていた。


「それで、実際どうなの?」


 またもや最初に口を開くのは雪男。

 さっきまでホームルーム前の俺なら、この質問をどう返そうかと悩んでいたんだろうが、これを予測してホームルーム中に回答を考えていた。


「そんなことよりさ、自己紹介しようぜ」


 これが正解だ。

 お互い傷つかず、話題を逸らせる。

 実際、お互いのこと全然知らないし。

 冬乃と雪男という姉弟のこと、もっと知りたいし。


「んー……かわされた感は否めないけど、皆さんそれでいい?」


 マヒロと冬乃がこく、と頷く。

 俺も一応頷いておく。

 そういや全然気にならなかったけど、いつの間にか雪男に主導権を奪われているな。

 これがイケメンのコミュちからか。

 初対面は意味分からなかったのに。


「じゃあ、ここにいる全員の共通点、タイキから」

「ええと、じゃあ俺からというわけで、本名、早川大貴、趣味はlegend gun……っていうゲーム。これくらいでいいか?」

「とりあえずそれでいいよ」

「なるほど……れじぇんどがんってゲームが趣味なのね……」

「じゃあ、次は姉ちゃんね」

「本名、双葉冬乃で、趣味はれじぇんどがんよ!」


 趣味は絶対今捏造しただろ。

 さっき、「れじぇんどがんってゲームが〜」とかたどたどしく言ってたの聞き逃してないぞ。

 わざわざ捏造しなくても、普通に仲良くなれそうだと思うんだけど。

 まあ、冬乃には冬乃なりの考えがあるのだろう。

 コミュ障の俺は嘘をついてでも友人との共通項を作ろうとする感覚が、ちょっとは分かるし。


「じゃあ、次はタイキの友達さん」

「本名は、小鳥遊万尋です。趣味は、legend gun!」

「へー、legend gunから友達になった感じ?」

「そ、そうです」

「てか、小鳥遊って高い梨? それとも、小鳥が遊ぶ?」

「小鳥が遊ぶ、の方です」

「珍しいね」

「そ、そうですね」


 同居が始まってから、初めてたどたどしいマヒロを見た気がする。

 そういえば2年前、初めて通話をした時はお互いではあんな感じだったな、とマヒロヒロとの出会いを思い返す。

 それと、雪男は結構手慣れてるな。俺と会話した時はだいぶ支離滅裂なこと口走ってたのに。


「えーじゃあ最後に……本名、双葉幸男です。趣味は……ナンパ?」


 なんだコイツ。

 けっ、イケメン様はいいですね。

 だから女の子と喋るのは手慣れてるってか。

 せっかく仲良くなれると思ったんだけど、どうやら違うらしい。


「女の子にナンパって言っても、ゲームの中だけじゃない!」

「ちょ……やめてよ」


 姉からのリークでたじたじになる雪男。

 なるほどなるほど、趣味はギャルゲーと。

 前言撤回、仲良くなれそうじゃないか。

 あれ、でもそれにしてはマヒロと仲良く喋れてたよな。

 ちょっと嫉妬したくなるくらいに。


「まあ、そんな感じです。あ、ちなみにこの際ぶっちゃけると、僕が勝手に設定している"二次元度"が高い女の子相手にはグイグイいけます」


 なんだそれ。でも確かに、マヒロの二次元度多分相当には高い。

 だから気軽に話しかけれたのだろう……意味分からないけど。

 雪男は結構変人という事を脳内メモに書き込んで、口を開く。


「よし、じゃあ今日はお開きにしよう! みんなまた明日な!」

「まあ、そうだね。初日から教室に長居するのも少し違う」

「わたしはもっと話したいけど……でも、タイキがそうしたいならまた明日でもいいわ!」

「私も、それでいいよ」


 というわけで、各々家に帰ることになった。

 俺はマヒロと被らないように、スマホで調べながら遠回りして帰ることにする。

 家に帰ったら、マヒロと少し話をしないとな。

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