第21話

 

 「――し!お――!大星!大丈夫か!大星!」


 ん?これは、河井の声?何で河井の声が聞こえるんだ?

 そう言えば、誘拐されたんだったか……。

 我としたことが……。

 河井も一緒に誘拐されたというのか。

 転移は……駄目だ。結界内の生物の生物が結界外に出る事を制限する類の結界が張られている。

 結界のコアを破壊する必要があるな……。

 てか

 

 「ここは……」

 「おぉ!目ー覚めたか!良かった!」

 「わ!」


 我が起き上がり、河井に現状について聞こうとすると、河井が我の肩を思いっきりつかみ、グワングワン揺らしてきた。


 「おいっ」

 「あぁすまん……ってか離れないと」

 

 河井が我から離れていく。


 「ここは何処だ?」

 「俺にもわからない。……けど、俺たち多分誘拐されたんだ。検査が終わった後、俺だけ違う車に乗った所までは覚えてるんだが……気づいたらここにいたって感じだ。でも多分一日くらい経ってると思う」

 「そうか」


 周囲を見渡す。

 ここはどうやらコンクリートの壁に囲まれた殺風景な部屋のようだった。

 扉はあるようだが……まぁ、開かないだろうな。

 次に、空間魔法の練習もかねて『空間把握』を使い、周辺の地形を把握する。

 どうやら我らは倉庫の地下に監禁されているようだった。

 通路は割と複雑なようだが、まぁ問題ない。もう把握した。

 中にちらほらいる我らを誘拐したと思われる人間が問題だが……。

 そう、我が現状を分析していると、少し離れたところに居た河井が沈んだ声音で話しかけてきた。


 「……昨日はゴメンな、その……怒鳴っちまって……。俺、どうかしてた。確かにちょっと空気読めてなかったけど、大星なりに俺を元気づけようとしてたんだろ?」


 ……やっぱりコイツは……何というか、すごい奴だ。

 誘拐されているという現状や、自分ではどうしようもない悩みを抱えながらも他者を慮れる。

 これは誰にでもできる事ではない。


 いまだに置かれている状況は解らないが……今こそ覚悟を決める時だ。

 

 「おい河井、俺がこの前入った事覚えてるか?お前の『エナジードレイン』何とかしてやるって話」

 「なんだ?まだその冗談引っ張るのか?」


 河井が無理矢理作ったような笑みで言う。

 あぁ。言いたくない。

 秘密を話すのが怖い・・

 人を殺したり傷つけたりすることよりも、人を信じるという事の方がはるかに恐ろしい事だなんて、前世では思いもしなかった。


 このまま言わないままでもいいんじゃないか?

 今ならまだごまかせるぞ?


 そう思うもう一人の自分が居る。

 だが、我は止まらない。

 我は決めたのだ。

 信じて貰うために、まずは自分が信じる、と。

 

 「冗談なんかじゃない。本当の話だ」

 「なぁ、俺ならもう大丈夫だよ。流石に今は冗談何て言ってる状況じゃないぜ?」

 「だから、冗談じゃないんだ」


 河井が怪訝そうな顔をする。

 まぁ当然だろうな。

 だから我は行動で示す。


 「今すぐにどうこうしてやれるわけでは無いが、絶対に何とかしてやる。ここを出た後でな」

 

 我の真剣な様子に驚いたのか河井は口をぽかんと開いたまま動かない。


 「そのために、まずここを出るぞ」

 

 そこまで言ってようやく、河井が動き出す。


 「ここを出るって、どういうことだ?さっき調べたけど、あの扉はびくともしないぞ?」

 「扉?そんなもの壊すなり、転移ですり抜けるなりすればいいだけの話だ」

 「は?」


 物質は『地球人Lv1000』を持っていないから破壊は容易。

 転移も結界内なら自由自在だ。

 我はもう隠さない。


 「今回は騒ぎを起こすわけにはいかないから転移で行くぞ。何処に誘拐犯が居るかわからないからな。おっと、その前に」


 河井に支援魔法をかけ、強化する。

 消費魔力は、まぁ魔力総量の2割ぐらいはぶち込むか。


 「多重展開。身体能力強化(大)×3、腕力強化(特大)×3、防御強化(特大)×3、魔法抵抗力強化(特大)×3、敏捷強化(特大)×3」


 「わっ!なんだこれ!?体の奥から力が溢れてくる……ッ!?」

 「俺がお前を強化したんだ」

 「強化?」

 「強くしたって事だ」

 「言葉の意味が解らなかったわけじゃねぇよ!」

 「そうか、じゃぁ早速行くぞ」


 我は河井の手を握る。


 「『遠見の魔眼』、『転移の魔眼』」

 「わっ!って、え?これ、さっきの扉?」

 「そうだ」


 河井が一瞬で扉の向こう側に移動したことに困惑している。


 「どうだ?これで冗談じゃないって信じられそうか?さっきの話」

 

 我がそう言うと、河井は俯いた。

 ど、どうしたんだ?


 「す」


 す?

 河井が我の肩を掴んでくる。

 何をするつもりだ?


 「すっげぇなぁ!お前!なんっか!んー!良くわっかんないけど!すっげぇなぁ!」


 グワングワン揺らされながらめっちゃ褒められ?た。

 うっぷ。脳が揺れて気持ち悪い……。


 まぁ、でも。


 沈んだ河井よりも、馬鹿っぽい反応の河井の方が、我は好きだがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球じゃ魔王は最弱種族⁉ 楽太 @hz180098sd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ