第20話

 一瞬呆けた表情になった河井だったが、その顔はすぐに怒りに染まっていった。

 何で?


 「子供のお前に何ができるってんだよ!」

 「はぁ!」


 突然の怒りの叫びに、周囲の視線が我らに集中し、周りがしんとなる。


 それにしても、何言ってんだコイツ。

 我は魔王だぞ、そのくらい何とでもなるに決まって……。

 あ。

 そう言えば今の我魔王じゃなくてただの子供だった。

 

 「もういいよ……」


 そう言って我から離れて行ってしまう河井。

 人と一定の距離を保ちながら人の居ない方へ歩いていく河井の背中は酷く寂しげに見えた。

 ようやく、周囲がまばらに動き出す。


 これ、ヤバくね?

 完全に大失敗だ。

 我としたことが感情的に行動してしまうとは……。

 もっと考えて行動すべきだった。


 だが、おかしい。

 前世ではこんなに感情的になったことなど無かった筈だ。

 もしかしたら今の我は自分で気づいていなかっただけで精神年齢が退行していたのかもしれない。

 思い返してみれば、ゴブリンロードの一件だって、心が折れるのが早すぎた気がする。

 クソ女神に対する負の感情も感情的になった影響だったり……いや、それは無いか。


 まぁ、何はともあれまずいことになってしまった。

 河井の悩みを解決するどころかより深刻にしてしまったかもしれない。

 これでは河井と仲良くなる所ではなくなってしまった。

 マジでどうしよ。


 結局、そのまま検査は終わった。

 帰りのバスも河井だけは別車両。

 その後も機会には恵まれず……


 ついぞ、河井とは一言も話さなかった。



 *


 

 「――それじゃあみんなまた来週!解散!」

 「空人!一緒に帰ろう!、て、どうしたの暗い顔して?」


 学校に戻ってきて、解散すると葵が向かってきた。


 「いや、それが――」


 家に向かいつつ、我は葵に先程起こった事について話した。


 「――ってなわけだ」

 「うーん……つまり、やっちまった訳だね?」

 「そういう事」

 「河井君って、最近昼休みによく空人と一緒にいる男の子だよね?空人の友達?」

 「いや、友達じゃない。友達候補だ」

 「つまり空人は河井君と友達になりたいのか」

 「まぁ……そいう事になるのか?」


 一応今の友達候補第一位だし。


 「……それにしてもさ」

 

 葵が少し思案顔で話しかけてきた。


 「なんだ?」

 「その河井君?のスキルが分かったって事はもしかしてだけど空人のスキルも知られちゃってたりするかもよ?」


 ……。


 ……。


 ……。


 「葵」

 「なに?」

 「どうしよう」

 「知らないよ」

 「だよなー」

 

 ……。


 やっべぇぇぇぇ!

 マジで!?どうしよう!

 あぁぁぁ!

 問題が増えたぁぁ!


 「まぁ、でも魔道具が反応しなかったなら大丈夫かもだけどね」

 「!」


 は!

 そうだよな!

 そうだと信じたい!

 よし、そうだという事にしよう!

 ってか、そう思ってないとやってられん!

 

 「何急に清々しい顔になってるの?」

 「なーに、何も問題なかったからだ」

 「いや、別に大丈夫だと決まったわけじゃ……」

 「いや!大丈夫だ!」

 「必死だね……」


 大丈夫ったら大丈夫だ!


 「まぁ、それでいいならいいけど……。で?どうするの、その河井君は」

 

 そうだ、そっちの問題は解決してないんだった……。(※もう一つの問題も解決したわけではない)

 

 「どうしたものか……」

 「そのユニークスキル『エナジードレイン』だっけ?をどうにかする方法を空人は知ってるんでしょ?」

 「ああ。知ってる」


 あのスキルは熟練度が上がれば、つまりはスキルレベルが上がれば制御できるようになるはずなのだ。

 なので、HPが高い我が練習相手になってやればすぐにレベルを上げられると考えている。


 「手立てがあるなら落ち着いたらもう一度話して見ればいいんじゃない?」

 「話した所で信じてもらえるかどうか……」

 「そこはもう、思い切って空人の秘密をドーンと明かしちゃえばいいんじゃない?」


 は?


 「いや!それは駄目だろう!」

 「なんで?」


 何でってそりゃ、我はまだ河井とそこまで親しいわけじゃ無い。

 まだ出会って一週間もたってないんだぞ。

 それにもし秘密を話して、言いふらされたりでもしたら我の人生が詰む。


 そんな事を考えている我に、葵は続ける。


 「空人、人に信じて貰いたいならまずは人を信じてあげる事から始めないといけないんじゃない?」

 「……」

 

 人に信じて貰いたいならまずは人を信じるべき、か。

 

 『俺が、葵を強くする。絶対に殺させたりしない。俺は、訳あって隣で一緒には戦えないど……。一緒に、戦ってくれないか?』

 『……わかった。空人を信じて戦うよ』


 確かに、そうなのかもしれないな。


 それにしても……。


 「本当にお前、六歳児か?」


 言ってることがすでに人生経験豊富な大人のそれだ。

 

 「失礼な、私はピッチピチの6歳児だよ?って、もう家だ。じゃぁ、またね!」

 「またな、あと、ありがとう。葵。」


 我は良い友達を持った。


 

 *



 そして。



 葵と別れ、家までのわずかな道のりで……



 我は何者かによって誘拐された。


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