第18話

 待合室の広間に戻ると、早速騒がしくなっていた。

 まぁ、六歳児なら普通こんなモノなのだろう。

 そんな騒がしい空気の中、一人静かに座っていた葵が検査を終えて戻ってきた我に気付いたのか向かってきた。


 「探索者適性検査、どうだった?」

 「どうだったって言われても……全くもって普通だったぞ。ただ金属の板が出てきて手を乗っけただけだ」

 「え?何にも感じなかったの?」


 ?


 「感じるって何を?」

 「何か戻ってきた子達はみんなぶわぁって感じがしたらしい。私にもよくわからないけど」

 「そうなのか……」


 じゃぁあの検査官のじぃさんはもしかして、我が何の反応もしなかったことに驚いてたのか……。

 まぁどうせこの件も、あのクソ女神が何かしたのだろう。

 もしかしたら我のレベルアップを妨害したのが関係してたりするのかも知れないけど。

 

 「それにしても葵、お前知り合い居ないのか?俺が来るまでずっと一人でじっとしてたけど」

 「空人が居る」

 「俺以外だよ」

 「……私も最初は話し相手を作ろうとはしたんだよ?空人違うクラスだし」

 「じゃぁ何で?」

 「だって……会話が成立しないんだもん」

 「あぁ……」

 「友達を作るのはもう少し周りが育ってからにする。せめて会話が成立するくらい」


 いや何処目線だよ。

 まぁでも確かに、六歳児の会話に精神が超早熟の葵が混ざれるとは思えない。

 周りの会話を聞いていても、会話の内容が物凄くふわふわしているのだ。

 葵が会話が成立しないというのも無理はないかもしれない。


 「うん、それはまぁ、しょうがないな」


 というか、普通は六歳児は会話が成立しないのか……。

 確かに、まだ一日しか学校には行っていないが、周りはうんこやらしっこやらの話題でゲラゲラ笑っていた。

 そう言えば、クラスでこの学校に『うんこ野郎』が居るという噂が流れていた。

 何でも、二日連続で登校中に鳥のうんこまみれになった奴が居たとか居ないとか。

 いやーほんと、誰の事だ?


 それにしても、そう考えてみると、河井は周りと比べて割と成熟しているのか?

 河井の評価を上方修正しておこう。

 友達候補にすることにするか……。


 ちなみに、友達候補とはその名の通り友達の候補である。

 我は先日の一件で友達というものと、その大切さを知った。

 自分から助けたいと思い、自分も助けられる信頼のおける存在。それが友達である。

 この世界では最強でない我には友達の存在が必要不可欠だ。

 ……そう、これは断じて合理的な理由によるものである。

 大事な事なのでもう一度言う。

 これは断じて合理的な理由によるものである。

 本当だぞ?

 

 そう、これぞ、我が第一の計画。


 『友達百人計画』!


 我の今世での最初の計画である。

 この計画を足掛かりにして、今一度、我は世界征服を目指すのだ!

 一見世界征服には関係なく見えても物事は見えないところで巡りに巡り、繋がっていたりする。


 思えば我も、異世界から勇者が召喚された事を知っていながら、たかが勇者と侮った末に殺されたのだ。

 『地球人Lv1000』は対魔王特化スキル。

 今となってはもう遅いが、もしも我を殺した勇者が召喚された直後に暗殺者でも差し向けていれば、我が死ぬ事も無かったかもしれない。


 『世界征服は日々の積み重ね』


 という魔王代々伝わる格言がある。

 一見意味がないと思える努力でも大切な事もあるのだ。

 だから、友達を作る事も、いずれ我が世界征服するのに役立つ。……かもしれない。


 今はまだ、信頼している友達は葵だけだが、まだまだ増やしたいと思っている。目標は高く、目指せ友達百人である。

 

 それにしても、先日の一件と言えば、ずっと気になっていたことがあったのだ。


 「そういえば葵、どうして昨日、俺が三ッ沢ダンジョンに居るってわかったんだ?」

 「あぁ。つけたの」

 「追跡したつけた?」


 背後に気配なんて居なかったはずだが……。

 まさか、気付かなかった?この我が?

 それこそまさかだな。

 日常に死の危険が潜んでいる我が周囲への警戒を怠るわけがない。

 ならどうやって?


 「葵の気配は無かった筈だが?どういうことだ?」


 そう言うと葵はキョトンとした顔をすると次の瞬間おかしそうに笑った。


 「あはははは!ごめん。言葉が足りなかった。つけたって言うのは別にストーキングしたわけじゃ無くて、GPSの事」

 「……じー、ぴーえす……?」

 

 今度は我がキョトンとする番だった。

 じーぴーえすってなんだ?

 本当にこの世界の物は難しい。


 「あぁ。空人ってそういえば機械音痴だったね」

 「機械なのか?そのじーぴーえすというものは」

 「いや、GPSは機械じゃないよ。スマートフォンに入ってるアプリの事」

 「あぷり?は、……『れんらくさき』の仲間か!」

 「まぁ、そんな感じ、かな?」

 「ん?そんなものを入れた覚えはないんだが……」

 「あっ」


 葵が焦ったように我から目を逸らす。

 逸らした目が右へ左へ泳ぎまくっている。

 この反応、まさか……。


 「葵。お前もしかして……」

 「ごめん!連絡先交換するときにこっそりインストールしちゃった!」


 おい。

 ……まぁでも。


 「……あーうん。まぁでもそのじーぴーえす?のおかげで助かったわけだし……。免罪」

 「ありがとうございます!裁判長!」

 

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