第10話その寝顔に…いいよね、このくらい

「失礼しまぁー……」

ガラガラと保健室の扉をスライドさせながら入室しようとした私の視界に、ベッドの周りをプライバシーを厳守するカーテンが覆っているのが映る。


ああ、またか……


短いため息を吐き、カーテンで囲われたベッドに足音を立てまいとそっと歩み寄る私。

カーテン越しに聞こえるのは、ベッドで横たわる人物の寝息だけだ。

狸寝入り、というわけではなくマジで寝てる。


渕谷恵ふちやめぐみの無防備な寝顔には愛おしくて愛でたくなるほどに魅力が詰まっている。カサついておらず潤いのある唇にぷるんぷるんと弾力のある白く透き通った頬、意外と下まつ毛が長いのも嫉妬してしまう。

私は、彼女の肌ほど潤ってはいない。

起きている渕谷恵あなたには、振り回されてばかりなんだから……くらいシタっていいよね?


カーテン越しのあなたじゃ満足なんてできない……できないよ……


カーテンを越えて、恵の寝顔を見下ろし、唇が触れられるように屈む。

彼女の寝息が顔にかかり、正気を失いかけながらも彼女の無防備な寝顔を見つめてキスをした。


やっぱりあなたの頬って……


——恵、責任とってよ。


言いたくても、言えないよ……こんなの——。


渕谷恵あなたの全てを知りたい、水着姿も拝みたい……それに、あなたの——。


私は、あなたに——




——って言いたい。





言えるまで、渕谷恵あなたは待ってくれるかな。

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