第37話 走り屋ツーリング

俺が暫く抱き着いていてやると、永太が俺の体から離れて、はっとした表情をしていた。


「あ、ご、ごめん…いきなり抱き着いちゃって…」


「あ、い、いや、大丈夫」


「俺、無意識で変なことしちゃう癖があるんだよね…」


変なこと、俺にとっては嬉しいことです。…ってのは絶対に本人には言えないけど。


…そういえば俺、初めて人に抱き着かれたかもしれない。親はいつの日か俺に冷たくなったし、付き合った人もいなかったし…。いや、というか付き合えんし。…俺の初めてを取られたな、永太に。


「…ん、どうしたの、またぼーっとして」


「あ、ごめん何でもない」


「そっか、何かあったらすぐに言いなよ」


「ん、ありがと」


「じゃ、移動しますか」


「ど、どこ行くとか予定あるの?」


「うん、華成さんに…あ」


え、華成さんに何だって?あって何だ、あって。


「…華成さんの名前出しちゃいけないんだ」


「え、どういう…」


「んー…ま、いっか、取り敢えず俺に着いてきて」


いやめっちゃ気になるんですけど?何の話してたの?え?…まぁ、今は大人しく永太に着いていきますか。


「あれ、幸牙って今日車でここまで来たの?」


「うん、車」


「じゃあこれからツーリングってことだね」


「え、ツーリング?」



永太の後を追いかけること数分。駐車場に辿り着いた。


「あ、幸牙の車ってどれ?」


「あ、えっと…あの車」


俺は自分の車がある方を指さした。スカイラインの白いボディが他の車より輝く。何か俺の車、結構目立つな。エアロとか着けてるせいなのかな。でもスカイラインの横に停ってるFDもかっこよくないか?黄色いボディの。


「え、あのスカイライン?」


「う、うん、あれ」


「え、マジ、幸牙スカイライン乗りだったの?」


永太が尻尾を振って目を輝かせながら話す。そんなに驚かれる様なことなのかな…。


「ちょっとよく見せて、あれ」


言い切る前に永太は車の方へ歩き出した。…時々いるよな、車の話になると夢中になる人。永太車好きなのかな?


「うわ、ガチガチにチューンしてあるじゃん、ボンネット開けてみてもいい?」


「あ、いいよ、開けるね」


車の鍵を解除し、レバーを引っ張ると、ガコン、と音がしてボンネットのロックが解除される。永太がボンネットを両手で上に上げる。


「うぉ…これがRB26…初めて見た」


あーるびー…何だそれ。型式?やばいな、オーナーなのに何も知らんぞ。…少し勉強でもした方がいいのか?


「良いなー俺のFDよりパワー出るだろうな」


「え、FD?」


「うん、隣のFD俺の車」


え、マジで?永太FDに乗ってたの?確かにここ停める時にFDの隣かーとは思ったけど。まぁ、ここしか空いてなかっただけなんだけどさ。


「え、FD乗ってたんだ…」


「うん、かっこいいでしょ」


「俺のよりかっこいい」


「いや、幸牙の方がかっこい…あ」


「…え?」


永太は力なくフラフラと膝から落ちて、そのままFDのボンネットに顔を埋めてしまった。


「…俺今日変なことばっかしてない?」


「割と普段からじゃない」


ひでぇなぁオイ!」


永太が顔を上げて少し大きい声で言った。言葉こそ乱暴だったものの、喋り方と表情は笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る