第38話 苦しみを背負う覚悟

それから数分間はずっと俺の車を見ていた。なんかずっとブツブツと言っていたがあまり聞き取れなかったし聞き取れてもよく分からなかった。


「え、永太?」


「へぇ…これがこうなって…」


「永太…?」


「あ、これ使ってるんだ…凄いな」


「……」


「成程これが…ひゃっ!」


俺は夢中になってる永太の尻尾を軽く握ってやった。永太はビクッと体を跳ねさせて動揺している。


「…正気に戻った?」


「あ、あぁ…ごめん、車の話になると夢中になる癖が…」


癖が凄いのよ、永太は。ここまで夢中になれる人初めて見た。


「…そろそろ行かね、あ、案内してもらわないと俺動けないし」


「じゃ、そろそろ行きますか」


二人とも車に乗り込み、エンジンを掛ける。排気音がやたらと大きい。サイレンサー増やそうかな…。


永太のFDが先導して、俺は着いて行く。離れない様に、離されない様に。


…いつか、俺たちは離れてしまうのかな。理由はともかく、いつの日か別れが来てしまうのかもしれない。『人は出会いと別れを繰り返す』なんて言葉なあるが、別れたくない人も存在するわけだ。離れたくない、ずっと一緒に居たい。俺の中で、そんな想いが募るだけ。虚しいやら、切ないやら、自分でもよく分からない感情に支配された様だ。


…多分、そんな考えは、明日には忘れていることだろう。一生忘れないものだけど、明日には忘れるもの。いっそそんなもの、蹴散らしてしまえばいいのにとも思った。でもそんなことをしたら、俺が今まで想ってきたあいつのことまでなくしてしまいそうで。


…あぁ、分かった。忘れてしまうんじゃない。忘れたくないんだ。


そうだ、きっと。忘れたくないんだ、あいつのことを。どんなにあいつのことを思って自分が苦しんでも、その苦しみも背負う覚悟であいつのことを想い続けているんだ。


好きだとか、愛してるだとか、そんな言葉じゃ表せない感情。どうにも人の心というものは難解で複雑なものらしい。分からない、最早口癖となってしまったかもしれない。分かろうともしてないだけかもしれないけど。


それでも、俺は―――


────俺は、永太のことが好きだ。この世で一番好きだ。


この気持ちは…大切にした方がいいんだと思う。



色んなことを考えながら永太の後を追いかけていたら、パーキングエリアに着いた。いつの間に俺高速乗ったんだ。完全無意識で運転してたから記憶すっ飛んでる。


適当な場所に二台を停め、車から降りる。


「ふう、到着」


「ここ、どこ?」


「あ、幸牙知らないの?大黒ふ頭っていうんだけど」


「へぇ、こ、こんな場所あったんだ」


上を見ると、高速道路がカーブを描きながらパーキングエリアを囲む様に伸びている。車の走行音が聞こえ、周りにも沢山車がいる。


「な、なんか凄い車多いね」


「ここ、よくああいった車が集まるんだよね」


周りにはエアロで武装した車ばかり、中にはスーパーカーもいた。凄いなここ、初めて来たけどこんな場所がこの国に存在するとは。


「あ、あれ86GTじゃん、新型の」


永太が指さした方向には、ピカピカの赤いトヨタ製の車だった。俺には車種がよく分からなかった。


「ちょっとあれ見に行ってくる」


「あ、お、俺も行く」


車めがけて一直線に走っていく永太の後を俺が追う。ホントに車好きだな、永太は。


永太がその車の前に辿り着いたと同時に、その車のドアが開き、人が降りてきた。


「あ、すみません、車少し見てもいいですか?新型の86気になってまして…」


永太がオーナーさんであろう方に話しかける。意外と社交的だよな、永太。


「あ、いいですよ…って、あれ」


「ん、どうかされました…あ」


俺は顔を上げると、そこには目元まで前髪のある狼が立っていた。え、ま、まさか…。


「そ、蒼哉くん!?」


「あ、やっぱり永太くんだ!それに幸牙くんも!」


なんと蒼哉くんだった。なんだかすごい偶然だ。世間とはどうやら狭いものらしい。いや、俺の周りだけか。


すると、助手席側から降りてきた虎獣人の方が言った。


「あれ、横川くんに杉皚くん?」


「え、部長!?」


まさかの会社組がここで揃ってしまったようだ。この後、どうなるんだ…?

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