第36話 デートは勘違いから

「な、なんで永太がここに…」


「あーそれはね…」


 ◆


 …遡ること金曜日。


「え、買い物付き合え…って?」


 俺は華成さんに、買い物があると言われたのだ。でも何で俺なんだ。いや、手伝うのは構わないんだけど…他にもアテはあっただろうに。


「うん、そこそこ大きい物だからさ、男の人に手伝って欲しくって」


「別にいいんだけど…なんで俺?俺見ての通りもやしだから力ないよ?」


「だって他に頼める人居ないもん。部長はなんか頼むの申し訳ないし、杉皚くんはちょっと無愛想だし」


「ぶ、無愛想…」


 その後になんか華成さんが何か言ったような気がしたけど聞き取れなかった。


「じゃ、明日ショッピングモール集合ね。時間は10時で」


「了解~」


 ◆


「…っていうことがあったの」


「な、なるほど…」


「でも実際は私が待ち合わせの時間ミスってめっちゃ早く来ちゃったの。そしたら偶然杉皚くんと会ったわけ」


 何その偶然。というか時間間違えすぎでは?数時間も間違えてるが…。いや、そもそもあの本屋に居たっていうこと自体も中々凄い偶然なのでは…。


「んで、杉皚くんと別れた後、ちゃんと永太くんと合流出来たわけ。んでその後、『明日暇?』って聞いたら『空いてる』って言われたから」


「そ、それで呼んだ…と」


「そゆこと」


 いやいやいや、だからと言って何故永太?いや、俺からしたら嬉しいことこの上ないんだけど。というかデートってそれ俺と永太のことなんじゃないの…。えぇ…まさか俺と永太、華成さんにくっつけられたってこと…?…もしそうだとしたら…あ、やばい、嬉しくて倒れそう。…クッソ、いっその事抱きしめてやろうかな。そのままの流れで告ってしまおう━━━


 ━━━いや落ち着け、ここで暴走してはいけない。平常心、平常心だ俺。第一告白なんてしてみろ。撃沈するのが目に見えている。やめだ、やめ。


「…さっきから表情険しいよ?幸牙」


 永太が心配そうな顔をして俺の顔を覗き込んでくる。第一に人の心配するんだよな、永太って。ホント優しいよな…。


「ごめん、いつもありがとな、永太」


「え、どしたの急に」


「…なんでも」


「えーなにそれ」


「ははっ」と永太が笑う。釣られて俺も笑った。…俺、永太がいなかったらじゃこの先生きていけないのかな。ずっと俺の傍にいてほしい。ずっと一緒に笑っていたい。…そんな考えは、永太を逆に苦しめてしまうのかな。永太には永太の人生があるのにさ。俺この勝手なエゴをぶつけるのは違うか。


「…あれ、華成さんは?」


 永太がそう言った。確かに、いつの間にか華成さんの姿がない。どこ行ったんだ?その時、ポケットに入れていた俺のスマホが振動した。振動した。メールが来たようだ。


 俺はスマホを取り出し、画面をつけてみる。するとそこには…。


「か、華成さんからメール来た」


「なんて来てた?」


「『ごめん!急用入ったから帰る!2人でお楽しみに!』…だってさ」


「…えぇ?」


 …おいおい、完全にデートじゃねぇか。マジで言ってんの。しまった、予定とか全部華成さんが決めてくれてるものだと思って何も準備してないんだけど。…これ詰んだ?


「…どうしよっか」


 俺がふと永太の方を見ると、何故か少し微笑んでいる永太がいた。その時。


「っ!?」


 永太が、俺に抱き着いてきた。ちょ、え、いきなり?何故に?顔が熱くなるのが分かる。多分耳の方まで。何か言おうと思ったが、先に口を開いたのは永太の方だった。


「なんかさ…デートみたいじゃない?」


「…え?」


「ははっ、幸牙、顔真っ赤だよ」


「う…」


 …永太って時々積極的だよな。怖くてアプローチ出来ない俺には嬉しいし何より相手が永太だから尚更嬉しいな。…偶には、お、俺も、積極的になっても…いい、よな?


「…お、お返しっ」


 俺もお返しに抱き返してやった。恐る恐るだけど、手を回した。…傍から見たらどんな風に見られてるんだろ。


「俺達、少し身長差あり過ぎかもね」


「いいじゃん、そんなの」


 少しずつでいい。今はこの気持ちに、正直になってみたいんだ。結果がどうなろうと、前に進んでみたいんだ。

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