第35話 犬一人に猫二人

 よく晴れた日の朝、俺はいつも以上に身嗜みを整えていた。理由は…そう。か、華成さんと…で、でー…うん、デートするから。


 いや待て冷静に考えてデートってやばくないか?やばいというか、付き合ってすらない人と一日共に過ごすんでしょ?俺、ちゃんと華成さんと向き合えるか心配だよ…。


 …そもそも、俺はホモだし。女性には一切好意を抱いたことがない。ましてや…華成さんにすらも。恋愛対象が男だったせいでロクに恋愛経験もない。そんな俺が…女性とデート、か…。ははっ、自分に似合わなさ過ぎて笑える。


 でも…向こうが誘ってくれたんだし、それにはちゃんと応えるべきだよな。別に断る理由がこっちにある訳でもないし。


 …そろそろ行くか。服装ヨシ、持ち物ヨシ。…オーケー、行こう。


 ◆


 俺は昨日と同じく、ショッピングモールに向けて車を走らせていた。しっかしなぁ…こんな車で行って大丈夫なものか…。


 俺の車は日産スカイライン(BNR34)。簡単に言えばスポーツカーだ。しかもかなり手を入れている為、外観も割と派手だ。ニュースとかで『女性が選ぶ彼氏に乗って欲しくない車』みたいなコーナーでスポーツカーとか改造車とかランクインしてたんだよなぁ…。


 華成さん、そういう所気にするかな。「え、これに乗って来たの?」みたいなこと言われたらどうしよう。…ま、まぁ。何も言われないことを祈るしかないな…。


 そんなことを考えながら運転していたら、あっという間に目的地に到着した。いよいよ…か。不安だけど俺、頑張るよ。


 車を駐車場に停め、ショッピングモールの中へと入る。中は色んな人がいて、賑わいを見せていた。俺は人混みをかき分けて、あの本屋まで一直線に向かう。


 …人と待ち合わせするのって、こんなにも胸がドキドキすることなんだな。もう少しリラックスすればいいのにな、俺。


 本屋が見えてきた。遂にここまで来たか…。華成さん、もう来てるかな?一応待ち合わせの時間五分前に来たけど…。うーん、それらしき人はいないなぁ。


 本屋に着いた。当たりを見回してみたが華成さんらしき人は見当たらなかった。まだ来てないのだろうか…。気長に待とう、と思ったその時。


「だーれだ?」


 どこかで聞いたことのある声と同時に、突然俺の視界が暗くなった。誰かの手の様だ。え、誰の手だ?…あ、もしかして…。


「か、華成さん?」


「正解、と言いたい所なんだけど…」


「…半分は不正解だなー」


 え、それってどういうことだ?華成さんなのは確かな様だ。だが、半分不正解というのはどういう意味だ?俺が分からず混乱していると、視界が明るくなった。手が外された様だ。


「後ろ向いてみて?」


 俺は言われた通りに後ろを向いた。そこには、やけに俺と目線が近い華成さんがいた。…あれ、華成さんってこんなに身長高かったっけ。


 すると、何故かここにいる筈のない人の声が聞こえてきた。


「か、華成さん、まだですか…?」


「あーごめんごめん、降ろしていいよ」


 華成さんの体が一気に下がる。すると、華成さんの後ろに、見覚えのある…いや、いつも俺が想い続けている、オレンジ色と白のの毛並みをした猫の姿が。ま、まさか…。


「ごめんね永太くん、私、重かったでしょ」


「いや、単純に俺の力が弱かっただけだよ」


「え、えい…た?」


「あ、幸牙…ごめん、何も言わずに来ちゃって」


 俺は何が起きているのか理解出来なかった。何故この場に永太がいるのか、何故華成さんは永太と一緒にいたのか。俺には分からなかった。

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