第9話 思い出の傷

 白い霧の中、俺と蒼哉は裸で抱き合っていた。蒼哉の熱に触れ、同時に蒼哉も俺の熱に触れていた。お互いの毛並みに触れる。蒼哉の毛並みは狼らしいフワフワの毛並みをしていた。


「蒼哉ぁ…」


「けいちゃん…」


 お互いの名を呼びながら、俺達は甘く溶けていった。




「フガッ!?」


 あれ…俺今何を…あれ?夢?


 どうやら寝てしまったらしい。時計を見ると午前11時、もう昼間だ。ふと横を見ると、蒼哉が寝息を立てながらぐっすりと寝ていた。


「…取り敢えず、着替えますか」


 …あ、そもそも服着てなかった。


 とんでもない事に気がついた。蒼哉の寝顔、可愛すぎていくらでも見ていられる。…そういえば、蒼哉ってどんな目しているんだ?いつも前髪が長くてよく見えないんだよな…。


「ちょっと失礼…」


 俺は前髪をそっと避けてみた。そこには、瞑っている瞳と…。


「…傷?」


 瞼を縦に横切るように、傷がついていた。しかも、額にも傷がある。前髪が長いのは傷を隠す為…?そもそもこの傷は一体…。


 その時。


「ん、んぁぁ…」


 蒼哉が起きた。俺はびっくりして、慌てて髪を避けていた手を引いた。


「…っ!お、おはよう」


「あ、けいちゃんおはよ~」




 蒼哉がご飯を作ってくれると言うので、俺はスマホを弄りながら出来るのを待っていた。それにしても、あの傷、どうしたんだろうか…。これ、聞いちゃってもいいものなのか?そうしてぼーっとしていると、目の前に料理が運ばれてきた。


「お待たせー」


 蒼哉が白米と目玉焼き、牛乳を運びながらそう言った。


「ありがとう。あ、目玉焼き、俺が一番好きな料理なんだよね」


「あ、やっぱり。昔から好きだったもんね」


 あれ、俺蒼哉に目玉焼きが好きなんて言ったっけ?


「あれ、知ってたの?」


「そりゃ幼なじみですから」


 蒼哉が笑顔で答える。そっか、幼なじみだもんな、俺達。


「いただきます」


「召し上がれ~」

 …やばい、めっちゃ美味い。料理上手すぎません?俺は料理全く出来ないから本当に羨ましい。蒼哉に養われたい…。


 …傷のこと、今聞いても…大丈夫かな?


「ね、ねぇ蒼哉」

「ん?」

「あ、あのさ、その…目の傷、どうしたの?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。


 すると…。


「あーこれは…」


 蒼哉が口を開いた。


「思い出の傷」


 そう言って、笑顔のまま左手で前髪を上げて傷を見せた。


「思い出の…傷?」

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