第10話 肯定します
水溜まりに崩れ落ちた足が凍るように冷たい。死ぬまでにしてきた今までの出来事が頭の中で騒ぎ出す。こうすれば良かったという物ごとがあれやこれやと騒ぎ立てて心臓を刺す。
「私が今までしてきたことって間違いだらけだったのかな…」
卑屈そうに吐き出した言葉は雨に濡れて真っ黒なアスファルトの中に消えていく。私ってつくづく惨めだなぁ、と哀しみに溺れていると、視界の隅にヒラヒラのスカートが入ってきた。
「あのー、貴方の担当上司になりました。宮野です。宜しくお願いします。さて、そのお悩み私が解決して差し上げましょう。」
くるりと身をひるがえし陽気に話すその姿はとても可愛かった。
「上司?」
「そうです。偉いんですよ、敬ってください。なんて冗談です。私はもう十分に役目を終えたのですがこの仕事が気に入ってしまって先延ばし先延ばしにして貰ってるだけです。まあでもベテランなので困ったら何でも聞いてくださいね。」
私を頼って、とキラキラと目を輝かせて私の方を見る。日が差してきた空に鳥の鳴き声が重なる。すると、思い出したように宮野さんは口を開いた。
「あ!そうそう。鈴木さんのその質問の答えなんですけど、間違っていないが私は正解だと思います。誰しも良かれと思ってしたことが悪い方向へ進んでしまうこともあれば逆にどうでもいいと適当にしたことが良い方向へ進んだりもします。例えどんな結果であろうと自分で一度決断した答えなのだから間違いなんて無いのです。貴方の人生は貴方だけの力で成り立っている訳では無いからその重圧が重く重くのしかかって時には過去を嫌ってしまうこともあると思います。けれど私は貴方の過去の苦しみを分かち合うことが出来ません。苦しみは自分にしか分からないから。ならば共に過ごす側は、支える側の先輩としては肩の力を抜いて貴方自身が最大限に活躍出来る居場所をつくります。貴方の選択してきた道の全てを肯定します。ここからまた勉強の日々で辛いことも多いですが、地に足をつけて貴方のダイヤモンドの様な綺麗な輝きを私にも見せてください。」
上司の言葉を聞いて体の奥から涙が込み上げ私は暫く泣いていた。
「…ありがとうございます。少し心が楽になりました。」
「鈴木さん、死神として、一緒に頑張ってみましょうか。」
にっこりと笑う宮野さんの後ろに綺麗な虹がかかっていた。
「はい。宜しくお願いします。」
「こちらこそ。」
それから電話を取るなり、忙しい忙しいと宮野さんは仕事内容について書いたマニュアルと携帯と鞄を私に渡して何処かへ消えてしまった。本当は雑に扱われたと怒ってもいいのだけれどさっきの言葉が嬉しくて怒る気になれなかった。私はとりあえずマニュアルの1ページ目に書いてある住所へと向かうことにした。
君がいてくれたから はる @haru0713
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