第9話 死後の世界

異様な眩しさに目を擦り、まだぼやけた視界の中で両手をつき起き上がった。天井は万華鏡のような柄をしていて壁は真っ白で傷一つない。床は透明な硝子でできていて窓もドアも無かった。現実とはかけ離れたこの場所はきっと天国なのだろう。何せ私は死んだのだから。


「簡単に死ねると思うなよ。」

と、背後から低い声がした。


ゾクッと身震いをして震える両腕を手で抑えた。カタカタと歯が恐怖で鳴っているのが分かる。


「今からあなたには罰を受けてもらう。罰と言っても期限付きだ。難しいものでもないから安心していい。君は今日から死神になったんだ。」


何やら説明をし出したので振り返ると、丸い黒縁の眼鏡をかけた少し堅そうな若い男性だった。スっと伸びた背丈に細い体、整えられたキメ細かい白い肌に黒い髪。そのまるで芸能人のような端正な容姿で黒い艶のあるスーツを綺麗に着こなしていた。角や牙の生えた恐ろしい怪物だと思っていたから震えも止まり肩をなでおろし肺に溜まった空気を吐き出せた。


「あ、あの、私、自殺をしたので地獄とかに行くのかと思って覚悟してたのですがそういうところにこの先行ったりするんですか?」

と質問したところ、


男性にやれやれという仕草をされ溜息を2回もつかれた。


「地獄なんてものはそもそも存在しません。地獄と呼ばれる所に行かなければならないような魂は現世で命を落とした時点で消滅しますので。ちなみに、消滅した後に微かに残った生命エネルギーは綺麗清められてから再利用されます。現世で言うところのろか装置の魂バージョンと言ったところでしょうか。それでですね、自殺というのは精神的に障害を負わされた人がなることが多くて罪にするかしないかっていうのの線引きが難しいのですよ。なのである程度ノルマをこなして頂いたら生命の循環に戻しているのです。まぁ、何処も人手不足ですからね。」


再利用かぁ。エネルギーがどうのとか、天国も色々と大変なんだなぁ。


「まぁ僕もその一人なのですが。」

と言い、その男性はごほんっと咳払いを一つして仕切り直した。


「名乗り遅れました。私、本日より貴方の上司にあたります死神長の治人(なおと)と申します。以後お見知りおきを。もう一人私の部下を貴方の教育係に付けるがまあそれは後程。説明が面倒なので当たって砕けろ精神でとりあえず地上に降りたら部下に聞け。」


死神長の治人さんはいつの間にか手に持っていた杖を床にトンっと1回付くと、杖の周りに波紋が浮かび上がり私の座っている地面が揺蕩うように波を打ち始め、そのままストンっと落ちる感覚と共に地面の感触に触れた。一瞬で辺りは見慣れた景色に戻っていたのだ。どうしようもなくて自分で切り離した世界に戻された喪失感よりも今起こっていることが目まぐるしくて理解が追いつかなくてただ雨に打たれていた。何処も濡れてはいないのに何故か寒く感じて心が傷んだ。









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