第8話 蛍の過去

消え入りそうな掠れた声が「助けて」と叫んでいる。声にならずに叫んでいる。何時まで経っても終わらないループの中で生きていた。どうしようも無い日々が悲しくて悲しくて堪らなかった。


濡らしたスカートの上に枯れた花束。しゃがんだつま先が痺れて痛い。叶わない愛を望んだまま誰も見ていないこの路地の長い長い階段を飛び降りた。


体を包む浮遊感。内蔵の浮く感覚。地面に叩きつけられる恐怖──────その全てを忘れて、ただ夜空を見上げていた。私に花を手向ける人はいないだろう。ならばせめて自分で手向けよう。生きる事から逃げた私には生きた花は贅沢に思えた。枯れた花の方が気が楽だった。これでいい、後悔も苦しみも全てを赤い血で流してさよならしよう。


転がって動かない自分の死体はどことなく綺麗に見えた。長い黒髪が顔にかかって、白くなった肌を際立たせていた。ドライフラワーを胸に赤く眠る──────。







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