第20話 伝導干渉波


 迎撃部隊が市街で交戦、被害が拡大していく。


 道はどこも、非難のためなだれ込む人々で混雑していた。逃げ惑う人々、破壊されていく街。


 そんな中、櫂惺かいせいたち訓練生は市民の避難誘導に当たっていた。


 A斑の櫂惺かいせい、アーティット、シェノル、ウィルは橋の両端に立ち人々を並ばせ、混乱が起きないよう誘導していく。


 時折、ヒューッと鋭い音をともなう強い風が吹きすさぶ。櫂惺かいせいはその風に気味の悪さを感じる。


「敵はこちらに向かって来てないようだけど、風が強くなってる」

 櫂惺かいせいは無線でA斑の皆に報告する。 


『空気漏れが起きているんちゃう』

 道を挟んでかいせい惺の向かい側に立って誘導するアーティットが答える。


『ああ、この音、気味悪いな』橋の対岸にいるシェノルがつぶやく。


 櫂惺かいせいはそんな最中、シェルターへと向かう流れと逆行する人影を見つける。人をかき分けながら流れとは逆に進む少女。


 見間違えるはずのない人、フェリシティ・ヘザリーバーンの姿だった。学校の制服姿、いつものブレザーではなくシャツの上に赤系のカーディガンを着ている。どこかへ向かって必死に走っていた。


「フェリシティ⁉ いったいどこへ?」

 櫂惺かいせいは走って行くフェリシティを呼び止めようと、大声でその名を叫んでみたが、周囲の騒音に掻き消され届かない。


「カイちゃん、どした? フェリシティって、え、えぇ⁉」と櫂惺かいせいがいきなり叫び声を上げたことにアーティットが驚く。


「フェリシティが、逆の方向へ向かっているっ!」

 櫂惺かいせいはフェリシティの後を追いかける。足が勝手に動いていた。


「おいカイちゃん⁉ どこいくのん⁉」


「フェリシティを連れて戻ってくる、ごめん‼ 少しの間頼む」


「おいっ! カイちゃん、こら、ちょっ、ちょ、おいーーーーーーーーーーーー‼」


 櫂惺かいせいは、親友のアーティットの声も届かないほど無我夢中で走り出していた。


 人で混雑する道をフェリシティの背中を追いながら走る。スマートマグネットシューズを履いているとは言え、1/5Gでは思うように速く走れず、フェリシティに中々追いつけない。そんな中時折、パァーッンとラップ音が響き渡る。そのたびに意識が刈り取られそうになる。


「これが、礁核体しょうかくたいの発するっていう、伝導干渉波でんどうかんしようは……なのか?」


 直接頭や体に伝わると、今度は体の内部から弾けるような音が響き渡る感覚。脳と身体からだ全体がしびれ、とてつもなく不快な感覚。


(だんだん強くなっているということは、礁核体しょうかくたいが近づいて来ているということか)


 フェリシティが行った方へ走っていると、彼女の姿を再び見つけることができた。声を張り上げて呼び止める。


「フェリシティーッ‼」


 フェリシティは自分を呼ぶ声に気付いて足を止める。


櫂惺かいせい君、どうしてここに?」


「フェリシティこそどこへ行くの? シェルターはそっちじゃない」


「うん。わかってるけど……私、軌道エレベーターの方に行かないといけないの」


「軌道エレベーターって、今は危険すぎる。敵がそっちへ向かっているとの情報も入ってる。とにかく今は避難が先だよ。一緒にシェルターへ行こう」


「ごめんなさい、チームのみんながいるの、行かなくちゃ」

 そう言ってフェリシティは制止を聞かず、また走り出す。

 

櫂惺かいせいはフェリシティの腕をつかむ。

「だから、そっちは危ないって」


「……お願い、連絡がとれなくて。港が攻撃を受けて、船からの伝言を、早く伝えに行かななくちゃいけないの、だから」

 フェリシティは何か大事なことを抱えているような切羽詰まった様子。


「わかった。僕も一緒に行く」

 フェリシティに根負けし、櫂惺かいせいは引き止めることを諦め一緒に行くことを決める。


 道端に乗り捨てられていた車を見つけると、乗り込んでエンジンをかけるが、何度やっても作動しない。


「もう動かなくなってる。コンピュータもバッテリーもやられてるのか、これも敵の伝導干渉波でんどうかんしようはのせい……民生用みんせいようだと、こうも簡単にダウンしちゃうのかよ。ダメだ、走って行くしかない、か」


 車から降りフェリシティに尋ねる。

H.E.R.I.Tヘリットの人たちは軌道エレベーターの中にいるの?」


「うん、その地下に、実は軍の施設があって、たぶんみんなはそこにいると思う。今日はそこで作業する予定だったから」


 二人は軌道エレベーターの地下に存在するという軍施設へ急いで向かう。


((パァーーーーーーーーーーーッン))

 またも伝導干渉波でんどうかんしようはが鳴り響く。今までで一番強い。櫂惺かいせいは思わず体勢を崩してその場に転ぶ。


櫂惺かいせい君、大丈夫⁉」

 フェリシティが立ち止まり、かがんで心配そうに顔を覗き込んできてくれる。


「大丈夫。フェリシティは?」

 フェリシティの様子をうかがうと、彼女はまったく平気な様子だ。


 ナノマシンが神経伝達を補助しているため思考や行動を阻害されにくい。礁核体しょうかくたいに対抗できるのはCRESクレスだけ、という事を実感させられてしまう。


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