第21話 迫る敵


 軌道エレベーター付近はすでに星屑体せいせつたいの一群に攻撃を受け大きな被害が出ていた。いたるところで火の手が上がっている。


 軌道エレベーター施設内に入り、H.E.R.I.Tヘリットのスタッフたちがいると思われる地下施設へ急ぐ。


(軌道エレベーターも動いていないな)


 すでに軌道エレベーターも運行を停止し閉鎖されている。その周辺には多くの〈ドラグーン〉の防衛部隊が出動し警戒に当たっている。戦闘の音はまだ遠くに感じると思っていたその時、上空から何かが飛来するのが見えた瞬間、敵の砲弾が降り注ぐ。凄まじい爆発が周囲に巻き起こる。


 咄嗟とっさ櫂惺かいせいはフェリシティをかばい、その場に伏せる。爆風が二人に押し寄せ、破片の雨が降り注ぐ。


 おさまると櫂惺かいせいは上体を起こし、フェリシティの方を確認する。

「フェリシティ、ケガは?」


「私は大丈夫。櫂惺かいせい君は?」


「大丈夫、こっちも問題ない。敵が来た、急ごう!」


〈ドラグーン〉達が再び攻めてきた敵に応戦する。


 瓦礫を避けながらフェリシティの後を追う。今の攻撃で多くの〈ドラグーン〉が大破し、その残骸があちこちに転がっている。櫂惺かいせいはあたりを見渡しながら警戒して走っていると、遠くで大きな黒煙が上がっているのに気づく。


「司令部がっ⁉」


 アムレート市基地の司令部の置かれている建物が跡形もなく倒壊している。その様子が遠くからでもはっきり見えた。


(軌道エレベーターの四方から銃撃音が響いてくる。ここが、敵に囲まれているのか?) 


 フェリシティは地下へ続く階段を降りて行く。その後をついて行くと、地下を走るトンネルの中に出た。その地下道を小走りで行くこと数分、入ってきたものと同じ何気ない鉄扉てっぴの前でフェリシティが立ち止まる。


「ついたよ、ここがそう。ちょっと待ってね」


「え、ここが?」 


 そう言うとフェリシティは首にかけていた通行証を扉にかざす。そして何の表示もされていない鉄扉に暗証番号を入力するように指を動かす。さらに自分の名前を名乗る、と正面でなく二人の後方の壁がゆっくり動き始めた。


(こんなところに、こんな仕掛けが……)


 中に入ると研究施設と思われる空間が広がっていた。そこにH.E.R.I.Tヘリットおもだったスタッフたちが避難もせず何かの作業に慌ただしく動いている。


「フェリシティ、どうしてここに?」責任者のマイヤーが尋ねる。


「港が攻撃を受けて、レ・ディ・ネーミが、ここに、直接着陸させるそうです。それを伝えるために」

 息を切らしながらサストリー副長の伝言を伝えるフェリシティ。


「そうだったの。それより、あなたが無事でよかった」

 チームドクターのジェーン・デイヴィス医師がフェリシティを抱きとめる。


「了解した。ありがとう、フェリシティ。良い知らせだ」

 H.E.R.I.Tヘリットの責任者であるマイヤーがフェリシティをねぎらう。


「ちょうどこっちもやっこさんを移動させようとしていたところだったんだ。もう軌道エレベーターを使って上げることもできないからな。助かったぜ」

 いつも楽天的な多田倉も緊張から解放された様子で、ふうっと息をはく。


「よかった~、これで脱出できるよ~、フェリちゃんありがとう、わざわざ伝えに来てくれて。安心したよ~、これで助かる」

 システムエンジニア・チームリーダーのサンベック・アルチャが心底安心した様子で椅子にもたれかかる。


「んで、そこのお前は誰だ」

 フェリシティの隣にいる櫂惺かいせいを睨みながら多田倉が告げる。


「ハッ、自分は第5008SWG部隊所属、霧笛櫂惺訓きりふえかいせい練生であります。ヘザリーバーンさん護衛のため同行いたしました!」

 櫂惺かいせいは敬礼をして所属と姓名を名乗る。


「フェリちゃん、ここは一応セキュリティレベル5の区画だから部外者は連れてきちゃだめだよ。まあ、警備兵がいないから仕方がないけど」

 サンベックがたしなめる。


「別に構わん、ここはもう放棄する」

 マイヤー局長が告げる。そんなやり取りをしているなか、揺れと外の戦闘の音が大きくなってきている。


「ドンパチの音がでかっくなってきたな……こっちに近づいてるのか?」そう言って多田倉は急ピッチで作業を進める。


「やはり、敵の狙いは、ここか」

 マイヤーがつぶやく。その場にいたH.E.R.I.Tヘリットの皆の表情がこわばる。


(一体ここに何が……)と櫂惺かいせいは疑問を抱く。


 外の様子をモニターで確認すると、防衛部隊がされている。


「レ・ディ・ネーミが来ると言っても、これでは着陸させられない。敵の対空砲火にさらされる。まだ地上へは上がるな」

 それを見ていたマイヤーが地上へ上がろうとするスタッフたちを呼び止める。


 広い空間の奥に、さらに空間が広がっている。暗がりでよく見えないが目を凝らしてみると、SWGのハンガーになっている。そこに数機の〈ドラグーン〉が駐機されていた。

「自分が、あの機体で上陸を援護します」


「えっ? 櫂惺かいせい君待って! 体は大丈夫なの?」


「少しの時間なら問題ないよ。ぜひ自分にやらせてくださいっ!」

 櫂惺かいせいはマイヤー局長に向き直り役目を買って出る。


「うーむ……ん! カイセイ・キリフエ……おお君か!」


「はい?」


「シミュレーターとは言え、フェリシティの動きにすべて対応できたというのは。君のおかげで貴重なデータが取れた。君もなかなか興味深い人材だな」


 それを聞いていたH.E.R.I.Tヘリットメンバーたちの櫂惺かいせいを見る目が明らかに変わった。どこぞの馬の骨とも知れない者を見るような視線が、打って変わって親しみや敬意をもった眼差しに変わる。


「ふむ。君なら、うまくやれるかもしれないな。では、頼めるか」


「ハッ、了解です! 最善を尽くします」


櫂惺かいせい君……」

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