第7話

☆☆☆


やっぱり、あたしには数字が見える……。



学校へ到着してからもあたしにはずっと数字が見え続けていた。



行きかう生徒たち。



生徒に挨拶をする先生。



その全員の額に数字がある。



もう見間違いなんかじゃなかった。



2日連続で、ここまでの人数に現れているのだから間違いだとは言えないレベルだ。



「おはようアンリ。今日も元気なさそうだね?」



2年A組に入ると、先に登校してきていたアマネがすぐに声をかけてきた。



「そ、そんなことないよ?」



無理をして笑ってみてもその笑顔はひきつり、視線はアマネの額へ向かってしまう。



やっぱり、アマネの額には数字が書かれている。



振り向いて見ると、偶然ゴウと視線がぶつかった。



ゴウはあたしへ向けて手を振っている。



あたしは軽く手を振り返しながらもゴウの額にくぎ付けになっていた。



やっぱり、ゴウの額にも数字がある!



心臓がドクドクと嫌な音を立てはじめる。



「あ、やばーい。数学の課題するの忘れてきちゃった!」



イツミが大袈裟に焦った素振りを見せて、ヤヨイへ声をかけている。



2人の額にもまた、数字が書かれているのが見えた。



「ちょっとアンリ、なにジロジロ見てんのぉ?」



「べ……別に……」



そう言いながらも、額から視線をそらすことができなかった。



「あ、もしかしてアンリも課題忘れたのぉ? それならアマネに見せてもらえばいいじゃん! 万年成績ビリのアマネに!」



イツミはそう言うと楽しげな笑い声を上げて自分の席へと向かって行ってしまった。



「あ、アマネ、大丈夫?」



額の数字に捉われ過ぎて、アマネが悪口を言われたことに気がつくのが遅くなってしまった。



「大丈夫だよ。慣れてるし」



そう言うアマネの表情は辛そうだ。



「イツミは誰に対してでもああなんだから、気にしちゃダメだよ」



「わかってるよ。万年成績ビリっていうのも、嘘じゃないしさ」



自虐的に笑うアマネを慰める余裕もなくなってしまいそうだった。



本当にみんな、額の数字が見えないのだろうか?



「ねぇアマネ、ここになにか見えない?」



あたしは自分の前髪をかき上げて聞いた。



「なにって、おでこ?」



「そうじゃなくて……ラクガキとか?」



その言葉にアマネは首をかしげ、キョトンとした表情になってしまった。



「別になにも書かれてないよ?」



「本当に?」



「本当だよ。どうしたのアンリ?」



「……ううん。なんでもない」



きっとアマネは嘘はついていない。



むしろ、あたしの額にラクガキがされてあったら、まっさきに教えてくれるだろう。



やっぱり、あたし以外の人間にはこの数字が見えていないのだ。



それならあたし1人が右往左往しても仕方ない。



誰になにを言っても信じてもらえないだろうし、黙って、気がつかないフリをしているのが一番賢い。



「それより、アマネは数学の課題できた?」



気を取り直すように聞いた質問に、アマネは泣きそうな顔になってしまったのだった。

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