第6話 魔法の正しい使い方

「――それで。その『リヴァージン』って魔法はどうやって使えばいいんだ?」


 ギガセクスからの依頼を嫌々ながら引き受けることになったわけだが、肝心の魔法の使い方がさっぱり分からない。


「うむ。それについてはこれに書いてある」


 ギガセクスは懐からおもむろに一冊の本を取りだすと俺に差し出した。渋々それを手に取ると、ギガセクスの温もりがほんのりと残っていてちょっと気持ち悪い。


 しかもよく見るとその本はひどく薄く、表紙にはどこか見覚えのある萌えアニメのキャラがえげつない格好で描かれていた。


「あ、間違えた。それはわしの秘蔵の一冊であったわ」


 ギガセクスはてへっと舌を出し、俺の手からその薄い本を奪い取ると慌てて懐に仕舞い込んだ。


 ……もうやだ、このおっさん。


 ギガセクスが改めて懐から取り出した本は辞書くらいに分厚く、いかにも中世ヨーロッパ時代の本のような装丁が施されていた。そしてこれにもおっさんの温もりが残っていて気持ちが悪い。


 その古びた本の表紙には、子供の頃にいたずら描きをした覚えのある太陽にも似たあのお下劣な紋様が描かれている。何かもうそれだけで読む気が失せてきた。


 気を取り直して装丁の金具を外し表紙をめくってみる。するとそこには漢字やひらがな、カタカナにも似た文字であれやこれやと書かれてある。


 ギガセクスが言うように言語はどこか日本語っぽい感じで、これなら何となくだけど読むことができそうだ。


 えーと、何々……。


『――禁断の最強魔法リヴァージン取扱い説明書――』


『魔法の使用にあたっては詠唱が必要になります。詳しくは巻末にある詠唱リストをご参照ください』


『詠唱を省略したり途中で止めると、魔法が発動しなかったり正しい効果が得られない場合があります。絶対にしないでください』


『同じ詠唱を連続して使用することはできません。一定の期間を置いてからご使用ください』


『リストにある詠唱以外に、オリジナルの詠唱を創作することも可能です。より厨二病的な詠唱を創作することにより、魔法の効果の増進が期待できます』


『ご使用上の注意。次の人へは魔法の使用をお控えください。経産婦。妊婦又は妊娠していると思われる人。使用後に拒絶反応を引き起こしたことのある人』


『ご使用上の注意に該当する人には、魔法を使用しても正しい効果が得られません』


『魔法の使用における特典として、ご使用ごとに《童貞力》が上がります』


『童貞を喪失すると、二度と魔法を使用することができなくなります。ご注意ください』


『魔法の使用は自己責任です。用法容量を守り正しくご使用ください』


『誤った使用による事故、損害等については一切の責任を負いかねます』


 ……パタン。俺はそっと本を閉じた。


 な、何じゃこりゃあ!? ツッコミどころが満載じゃないか!


 読めば読むほどこんな魔法は使いたくなくなってきた。


「ん? もう読み終わったのか? 早いではないか」


 ギガセクスはそう言いながら、読みかけのさっきの薄い本をそそくさと懐に仕舞った。


「おい、おっさん。やっぱり俺には無理だわ」


 ここはきっぱりと断ろう。たとえそれで、おっさんの怒りを買って未来永劫童貞でいるとしても、こんな恥ずかしい魔法を使うくらいならそれでもいい。


「何を弱気なことを言っておる。そんなことだからお主はいつまでも童貞なのだ」


「いやいやいや。この本を読む限り、これから先も俺はずっと童貞のままなんじゃないか!」


 ギガセクスは図星でも突かれたかのように一瞬ぎくっと反応した。このおっさんはほんと分かりやすい。


「ま、まぁそう言うでない。もしお主がわしの期待に応えて女神むすめたちを純潔しょじょにした暁には、お主を元いた世界へ戻してやろう。う、嘘じゃない、ほんとだよ?」


 そう言うギガセクスの目は泳いでいて明らかに嘘くさい。


 とはいえ、今の俺にはもう選択の余地はないわけで、元の世界へ戻れるというこのおっさんの口車に乗って引き受けるしかないのか。


 でも、もし元の世界へ戻れたとして、もう由依ちゃんは俺の彼女でもなければ純潔でもないんだよな……。


 それならいっそ、せっかくの異世界ってやつを思いっきり楽しんでやるとするか。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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