第7話 ビッチな女神たち

「それじゃあ異世界へ行くにあたって、俺がその『リヴァージン』っていう魔法で純潔しょじょにするおっさんの娘について詳しく教えてくれ」


 別に知りたくもないけど、名前も何も分からないんじゃどうにもならないしな。


「うむ。まず一人は知恵と戦いを司る女神むすめで、名前はマキア。頭が切れる上に神界きっての武闘派だ。ド派手な槍と盾で重武装しておるから見ればすぐに分かるはずだ」


 えっ? 重武装してるって普通に怖いんだが。


「マキアは女神たちの中でも特に可愛がっておってな。マキアも『大きくなったら絶対にパパと結婚するの!』と言ってくれておったのだ。それで胸もいい具合に大きく成長したある日のこと。それじゃあ本当に結婚しようと迫ったら、思いっきり槍の柄でぶちのめされてな。それからは口もきいてくれなくなり、ついには家を出て行ってしまったというわけだ」


 そう言うとギガセクスはしゅんと肩を落とした。


 いやいやいや。それは完全におっさんが悪いだろう。っていうか神として、いや、親としてダメだと思うぞ、それ。


「もう一人は下界で狩猟の女神などと言われておるアルティナ。明るく元気で、曲がったことが大嫌いないい女神だったのだ。いつも森の中を駆け回って狩りをするのが趣味だったのに、いつの頃からかそれが男狩りに変わってしまってな……」


 そこまで言うとギガセクスは言葉を詰まらせた。こっちの女神は女神で色々と問題がありそうだな。


 そんな二人を俺なんかが本当に純潔にできるのか不安になってきた。


「家を出て行った女神たちは、伝え聞くところによると下界でやりたい放題やっておるらしい」


 や、やりたい放題って、何を?


 それって、やっぱりのことなんだろうか。


「そもそもこの二人の女神は下界で処女神として崇められており、何があっても永遠に純潔でいなければならないのだ。だから頼む、お主だけが頼りなのだ!」


 これまでの神としての威厳はどこへやら、ギガセクスは泣きながら俺にすがりついてきた。


「き、気持ち悪いから離れろ!」


 女神たちが出て行った経緯を聞くと、このおっさんには全く同情できない。それでも、親として子供をどうにかしたいという想いは、まぁ伝わってこないでもない。


「わ、分かった。やれるだけのことはやってみるけど……」


「おぉ、やってくれるか! そうかそうか、それでこそわしが見込んだ童貞だ!」


 このおっさん、いちいち一言余計なんだよ。


「だが一つだけ言っておくぞ。もしも――」


 さっきまでの情けなかったギガセクスの顔が一変して、ギリシャっぽい顔立ちなのに般若のような形相になった。


 ゴクリ……。


「もしもわしの可愛い女神たちに手を出したら、その時は死ぬよりも、いや、童貞でいるよりも恐ろしいことになると覚悟しておくがよい」


 童貞でいるよりも恐ろしいことだって?


 ……いや、待てよ。


 このおっさん、これ見よがしに怖い顔して凄んできたけど、よくよく考えてみたら俺はもうとっくに死んでるし、魔法を使うためにはこれから先もずっと童貞のままでいなくちゃならないんだよな。


 そう考えると、これ以上に恐ろしいことなんてあるのかよって思うのだが。


「誰がおっさんの娘なんかに手をだすかよ。そんなビッチなんかこっちから願い下げだっての!」


「おいコラ、童貞! わしの可愛い女神らをビッチ呼ばわりするとは許さんぞ!」


 ギガセクスは鼻息を荒くして俺の胸ぐらに掴みかかってきた。


「いや、おっさんの方こそ、さっき自分で娘たちのことをビッチと言っていたじゃないか!」


「むむっ、そうであったか!?」


 またてへっと舌を出すギガセクスにほんのりとした殺意を覚えた。


 とりあえずおっさんへの殺意はぐっと堪えて、異世界へ行くにあたってやっておきたいことがある。


「なぁ、おっさん。異世界へ転生する前に、一度その『リヴァージン』っていう魔法を試しておきたいんだが」


 いざという時に魔法がちゃんと発動するのか。そしてちゃんと魔法の効果があるのかどうなのか。これらを事前に確認しておくことは重要だ。


「うむ、それもそうだな。ならば、わしに魔法をかけてみよ」


 ……えっ?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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