第5話 神からの(面倒な)依頼

「それで、その『リヴァージン』っていうのはどういう魔法なんだ?」


 因果律をも覆すっていうほどだから相当ヤバい攻撃魔法か何かに違いない。


 だがギガセクスはそんな俺の期待を一瞬で打ち砕いた。


「『リヴァージン』は失ってしまった乙女の純潔しょじょを取り戻す魔法。まぁ簡単に言うと、セックスとかで失われた処女膜を再生して、身も心も再び純潔に戻すという魔法だ」


 は? 何言ってんだ、このおっさん。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ! しょ、処女膜が何だって? 乙女の純潔を取り戻す? それが最強の禁断魔法とか意味がわからないんですけど!」 


 ヤバい、我ながらすげー動揺してる。処女膜がどうのとか童貞の俺にわかるわけないじゃないか。


 ギガセクスはふんっと鼻を鳴らすと、まるでゴミでも見るかのような蔑みの表情を浮かべた。


「まぁ童貞のお主には処女膜の何たるかなど知る由もなかろう。だがそれはさして重要なことではない。重要なのはお主が童貞であるということなのだ」


 ギガセクスの蔑む顔にイラッとくるのと同時に、ぞくっとする寒気のようなものを感じた。


「俺が童貞であるっていうことと、その魔法にどういう関係があるっていうんだよ」


「『リヴァージン』によって失われた処女膜を復活、再生させるということは、それはつまり因果律を覆してしまうほどの最大の禁忌。故に『リヴァージン』を扱う者は極めて高い魔力の持ち主であることはもとより、大いなる《童貞力》を備えていなければならないのだ」


 は? 《童貞力》?? 


 何それ、全っ然意味が分からないんですけど。ていうか、《童貞力》なんていうそんな力、別に無くていいわ!


「喜ぶがよい。わしが見込んだだけあって、お主には誰よりも高い《童貞力》が備わっておる。わしが軽く見積もっただけでも、お主の《童貞力》はざっと53万はあるぞ」


 ギガセクスは得意げに、でも所どころ笑うのを堪こらえるかのようにそう言った。


 いやいやいや。そんなこと言われても全然喜べないわ。それに53万ってフ○ーザ様かよ!


「お主は彼女との初めてのセックスを目前にして童貞のまま無念の死を遂げた。その結果、極めて純度の高い《童貞力》が備わったのだ。つまりお主は全宇宙で最強の童貞と言ってよい。そしてそんなお主にしか最強の禁断魔法である『リヴァージン』を扱うことができぬのだ!」


 全宇宙最強の童貞と言われても全然嬉しくないし、それがどうして俺なんだよ。それに処女膜再生だなんて、俺はそんな恥ずかしい魔法は絶対に使いたくないぞ。


「あのさ、ちょっといいか? そもそも、どういうシチュエーションでそんな魔法を使えっていうんだよ。戦闘なんかには全然役に立たないんじゃないのか、これ」


「いや、お主には戦うことなどはなから期待してはおらぬ」


 ギガセクスは馬鹿げたことを質問するなといった顔をした。


「はぁ? それなら俺はどうしてそんな魔法を与えられて、わざわざ異世界まで行かなきゃならないんだ?」


「よかろう。ならばお主をここへ連れてきた真の目的を教えてやろう」


 ギガセクスはこれまでにないほど真剣な表情になった。


 ゴクリ……。


「お主にはわしの女神むすめたちを純潔しょじょにして欲しいのだ」


「……はい?」


 おっさんのむすめをしょじょに??

 

 ちょっと何を言ってるのか分からないんですけど。


「わしには女神が何人もおるのだがどれも揃いも揃ってビッチでな。嘆かわしいことに皆もう純潔ではないようなのだ。そこでお主にはそんな女神たちを『リヴァージン』で純潔の身体に戻して欲しいのだ!」


 ギガセクスはさっきまでの尊大な態度とは打って変わって、懇願するかのようにそう訴えてきた。


「で、できるかそんなこと! しかも自分の娘をビッチ呼ばわりするなんて。そもそも、あんたの娘はいったい何人いるんだ?」


「たぶん……2、30人くらい? いや、もっといるかもしれん」


 照れながらそう答えるギガセクスの顔をマジでひっぱたきたくなってきた。


「そんなにいるのかよ! ていうか、自分の娘の人数くらいちゃんと把握しとけ!」

「安心せい。何もわしの女神たちを全て純潔にしろというのではない。女神たちの中でも、とりわけ処女神と崇められている二人だけは何としても純潔にして欲しい。その二人はわしにとって最愛の女神なのだ!」


 そう言うと、ギガセクスは涙目になりながら俺にしがみついてきた。


 ええい、鬱陶しい! 離れろ、おっさん!


「いやいやいや、あんたは全恥全能の神なんだろう? だったらそれはあんた自身でやればいいじゃないか」


 そもそもこういうのって親子の問題というか家庭内の問題だろう。赤の他人の俺が首をつっこむことじゃないと思うんだけど。


「ふん、わしがやれるくらいならとっくにやっておるわ。さっきも言ったように、『リヴァージン』は極めて高い《童貞力》を備えていなければならぬ。だがわしは童貞ではない。ゆえに『リヴァージン』は使えぬのじゃ。童貞のお主と違ってな」


 おい、いちいちそこを強調するな!


「事情は分かった。でもだからって処女膜再生なんてできるか! ていうか絶対にやりたくないわ!」


 何が悲しくて童貞の俺がそんなことしなくちゃいけないんだ。どんな罰ゲームなんだよって。


「おい、小僧。己の立場をわきまえよ。お主に断る権利などない。これは全恥全能の神であるわしの命令なのだ。もし断るというのなら、お主は童貞のままこの時空の狭間に未来永劫漂うことになる。それはつまり、お主という存在がもはやどの世界、どの宇宙にも存在しない無そのものになるということだ」


 ギガセクスは凄みを効かせた声でさらっと恐ろしいことを言い放った。もしそれが本当だとしたら、そんなの罰ゲームどころじゃないぞ。


 悔しいけど俺にはもう選択肢がないようだ。


「……わかったよ。やればいいんだろ、やれば!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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