第4話 全宇宙最強の禁断魔法

 俺は童貞のまま交通事故で死に、彼女だった由依ちゃんにはすぐに新しい彼氏ができて毎日セックス三昧。しかも由依ちゃんは、俺と付き合っていた時にはすでに処女ではなかった。


 衝撃の事実の数々を知らされた俺は、へなへなとその場に座り込んだ。


「まぁそう落ち込むでない。じつはな、お主にやってもらいたいことがあるのだ」


 慰める気ゼロのギガセクスが唐突にそんなことを切り出した。


 はぁ? やってもらいたいことだって??


「童貞のまま死んだ俺にやれることなんてあるのかよ」


 俺は自嘲気味にそう答えた。


「それがあるのだ。むしろそのために、わざわざお主をここへ呼んだと言ってもよい」


 ん? 今、このおっさん何つった??


「おい、ちょっと待て! わざわざ俺を呼んだって、それじゃあおっさんが交通事故を引き起こしたってことなのか?」


「えっ、あ、いや……、あの事故はあくまでも偶然であって、わしの与りしらぬことでだな。ぶつくさぶつくさ……」


 まぁた、あからさまに動揺しだしたぞ、このおっさん。


「と、とにかくだ。お主にはとある宇宙、つまり、とある異世界へと転生してもらう」


 あぁ、はいはい。お決まりのやつですね。それにどうせ転生先も、この手のお約束である中世ヨーロッパ的な世界なんだろう。


「その異世界とは、お主のいた世界に例えるなら中世ヨーロッパのような感じだ」


 そら来た。何の芸もひねりもない、ありきたりな設定だな。ここまでテンプレだと敢えてツッコミを入れて、おっさんのそのムカつくドヤ顔をぎゃふんと言わせたくなってきた。


 よし。それじゃあ、わざと意地悪な質問でもしてやるか。


「なぁ、おっさん。その異世界での言語ってどうなってるんだ? まさか、その辺は普通に話せちゃいますみたいな、ユルユルな設定ってやつなのか?」


 どうだ! 多くの異世界転生モノの核心を突く素朴な疑問。言語はどうなっているのか問題。これにどう答えるつもりだ、おっさん!


「それについては問題ないぞ。その異世界はお主がいた世界から10の500乗ほどの分岐を繰り返した世界でな。文明は中世レベルで留まったままだが、その代わりに神や魔物、魔法が存在する世界へと発展を遂げた。そしてその過程において、日本語がベースの《ニフォン語》が共通の言語となっている。だから会話や読み書きくらいはお主にとってどうにでもなるだろう」


 何ていうご都合主義だよ! ごちゃごちゃ理屈を並べたようでいて、結局はすんなり話せちゃいますっていうことじゃないか。


 まぁでも、すんなり会話ができるのは正直ありがたい。今から全く知らない言語を一から習得するなんて、苦行以外の何物でもないからな。


「――それで。その異世界とやらへ行って一体俺に何のメリットがあるわけ? この手のテンプレよろしく俺TUEEEハーレムだったらありだけど」


 俺は童貞のまま死んじまったんだ。ぶっちゃけそれくらいのメリットでもなきゃ、異世界転生なんてやってらんないっての。


「オレツエーハーレム? 何だそれは??」


 ギガセクスはきょとんとした顔で聞き返してきた。


 おいおい。ここまでテンプレな設定しておいて俺TUEEEハーレムをご存じないってか。厨二病失格だぞ、おっさん。


「俺TUEEEハーレムってのは、主人公がチートな魔法やスキル、武器なんかを与えられて無双して、おまけに複数のヒロインに囲まれてウハウハな設定のことを言うんだよ。異世界転生モノの定番だからね、これ」


 俺はドヤ顔で言ってやった。どうだ、分かったか厨二のおっさん。これくらいの設定にしておかないと、誰も異世界へなんか行きたくないっての。


「何だ、そんなことか」


 ギガセクスはやれやれこれだから童貞はと言わんばかりの顔をした。


「あるぞ、お主の言うチート的なやつが」


 ギガセクスはニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。


 おぉ、ちゃんと分かってるじゃないか、おっさん!


「それで、そのチート的なやつっていうのは何なんだ? 魔法か? それともSSRな武器とかなのか?」


 ギガセクスは急に真顔になり、そして厳かに答えた。


「それはお主にしか使えぬ、全宇宙の因果律さえも覆す禁断の最強魔法。その名も『リヴァージン』だ!」


 おぉ! 何かよくわからないけど禁断の最強魔法キタ――――――――――!!!


 それそれ、そういうやつですよ。それでこそ王道の異世界転生モノってやつですわ。


 よし、これで俺TUEEEハーレム確定だな。こうなったら、異世界で童貞を卒業するぞ!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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