第3話 悲しい現実
「それで、ぷぷっ、恥ずかしい方の……ぷぷぷ、全恥全能の神様さぁ。ここは一体何処なんだよ? ぷぷぷぷぷ」
ダ、ダメだ、どうしても笑いが込み上げてくる。おっさんの姿を見ちゃダメだな。なるべく下を向いていよう。
「こ、こやつ、わざわざ恥ずかしい方と言うでない!」
お、効いてる効いてる。精神攻撃は基本だからな。
「ふん。おっさんの方こそ、俺のことを散々童貞童貞言ったんだからおあいこだっての!」
「何だと? それは事実を言ったまでだろう!」
ようやく動揺から立ち直ったギガセクスは、威厳を取り戻すかのようにゴホンと一つ咳払いをしてから語り出した。
「さて、ここが何処かについてだが。お主のいた世界の概念で簡単に説明すると、ここはマルチバース宇宙論に基づいた無限にある宇宙と宇宙の狭間の虚数空間。つまり、時間も空間も無のように揺らいでいる所だ。そして無限にある宇宙の一つがお主の元いた世界。その他の宇宙がお主らの言うところの異世界ということになる」
はぁ? マルチバースに虚数空間? 無限にある他の宇宙が異世界だって??
ぷぷぷっ、何それ。ツッコミどころ満載じゃないか。それなのに、どうだ驚いたかと言わんばかりにドヤ顔してるギガセクスが妙にイラッとくる。
よし、ちょっといじってやるか。
「へぇ、それがおっさんの作った厨二的な設定っていうわけか。ていうかあんた、古代ギリシャローマなんかの世界観が好きなわけ?」
「ちゅ、厨二言うな! わしが苦労して作った完璧なまでの設定を……。そ、それにこの世界観は、あくまでお主のいた世界に寄せてビジュアル化しただけであってだな。ぶつくさぶつくさ……」
あぁ……。今、自分で設定って言っちゃったよ、この人。
「と、とにかくだ。ここは宇宙と宇宙、現実世界と異世界の狭間であって、お主は今、どこの宇宙にも存在しない無のように揺らいだ存在なのだ」
俺がどこにも存在しない? 無のように揺らいでるだって??
は、ははは……、何だそりゃ。もっとツッコミを入れればさらにボロが出てきそうだけど、ここはひとつ真面目に聞いてみるとするか。
「つまりそれって、やっぱり俺は死んだっていうことなのか?」
「そうだ。宇宙管理番号DOT072145451941941919、天の川銀河太陽系第三惑星地球、日本国○×県□△市▽○町交差点において、令和○年×月△日、午後4時2分19秒、竜舞勝17歳は交通事故により死亡ということになっておる」
むぅ……。やけに詳細なところが妙にリアルっぽくもある。けどその宇宙管理番号っていうのに、そこはかとない悪意を感じるのは気のせいだろうか。
目の前にいる神と名乗るおっさんは明らかに胡散臭い。とはいえ、死んだという事実を突きつけられるというのは精神的に堪えるな。
やっぱり俺、童貞のまま死んじまったのかよ……。
あ、そうだ、由依ちゃん! 俺の彼女だった由依ちゃんはどうしてるのだろうか。
彼女とおうちデートの約束をした後、俺は交通事故で死んじまったわけで、俺の死を悲しんでいたり、もしかしたら責任を感じていたりするのかも……。
よし、これはちゃんと確認しておかなければだ。
「なぁ、おっさん。俺の彼女だった由依ちゃんはどうしているんだ? 俺が死んで落ち込んでたり悲しんでたりするんじゃ……」
「ん? あぁ、お主の彼女なら新しい彼氏ができて毎日セックス三昧だぞ」
えっ? 何だよ、それ!?
由依ちゃんが俺の死を悲しむどころかもう新しい彼氏ができて、しかもその彼氏と毎日セックス三昧だっていうのか?
「そ、そんなの嘘だ、絶対に信じるもんか! 由依ちゃんはそんな
俺は初めてこのおっさんに対して怒りが込み上げてきた。
「そんなに信じられないのなら、わしの秘蔵コレクションの中から証拠の映像を見せてやってもよいぞ。しかも無修正だ。まぁ童貞のお主にはちと刺激が強いかもしれんがの」
ふぁっ!? 由依ちゃんの証拠映像だって? し、しかも、無修正……だと??
「おいコラ! どうしてそんな映像があるんだよ? それって普通に盗撮じゃないのか?」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな。わしは全恥全能の神だぞ。だから全宇宙のありとあらゆる物事を見通せるのだ。特に《恥》の部分においてはな。それをカメラでちょっと記録しておるだけだ」
ギガセクスは悪びれる様子など微塵もなく、むしろ踏ん反り返ってのたまりやがった。
「それを盗撮っていうんだよ! 立派な犯罪だぞ、おっさん!」
「ふん、ここにはそんな概念も法律もないわ。それにお主も本当は観たいのであろう? 童貞よ、素直になれ。なんなら証拠の映像を120分くらいに編集してブルーレイに焼いてやってもよいぞ」
こ、こいつ……。神どころか正真正銘のクズじゃねぇか!
「そんなものいらねぇよ!」
と叫びつつ、ほんの一瞬でも欲しいと思ってしまった自分がすっごく情けない。
くそっ、今すぐこのおっさんに殴りかかってやりたい。けれど無修正という言葉に、つい由依ちゃんのエッチな姿を想像してしまい、前のめりになって動けない。
「どうしたのだ? ようやく現実を受け入れる気になったか?」
「受け入れられるかよ、そんなこと……」
童貞のまま死んだことより、むしろ由依ちゃんに新しい彼氏ができたことの方が精神的ダメージが大きい。しかも、その彼氏と毎日セックス三昧って……。
本当なら俺がそうなるはずだったのによおおおおおおおおおおおお!!!
俺は気が狂いそうになるのを抑えて、このおっさんにはもう一つとても大事なことを確認しておかなければならない。
「……おっさん。この際だからもう一つ聞いておきたいことがある」
「ん、何だ? つまらん質問なら容赦せんぞ」
「つまらなくねぇよ! 俺にとってはとても大事なことなんだ。由依ちゃんは俺と付き合っていた時はその……、しょ、処女……だったのか?」
もしこれが否定されたなら、俺はもう立ち直れそうにない。
ギガセクスは眠たそうな顔をして耳をほじくっている。
「ふん。何だ、そんなことか」
そう言うと、ほじくった小指の先にフッと息を吹きかけた。
「そんなことって言うな!」
ほんっと、こいつマジでぶん殴りたいわ! そして、ギガセクスはしれっと言い放った。
「処女のわけあるまい」
あぁ、やっぱり聞くんじゃなかった……。
たとえ新しい彼氏ができたとしても、たとえその彼氏と毎日セックス三昧だとしても、俺と付き合っていた時の由依ちゃんは
俺の心の中で何かが音を立てて崩れていくのを感じた。
もう生きる気力もないや……。
あ、そっか。俺、もう死んでるんだっけ。
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【あとがき】
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