毒キノコと窓

「見てごらん」

 おじさんが言いました。

「えっ、何を?」

「そこだよ」

「どこ?」

「そこの窓さ。見えるだろう?」

「窓なんか見えないよ」

「そんなことはない。もっとよく見てごらん」

 僕はじっと目を凝らしました。すると、

「あっ! ピンク色の窓が見える。とても小さい」

「見えるだろう? ほら、向こうで歩く毒キノコが踊っているよ」

「えっ、毒キノコ? 見えないよ、そんなもの」

「そんなことはない。もっとよく見てごらん」

「窓が小さくて見えないよ!」

「そんなことはない。もっとよく見てごらん」

 僕はじっと目を凝らしました。すると、

「あっ! 窓がどんどん大きくなっていくよ!」

「そうだね」

「どうして窓が大きくなるんだろう?」

「そうだね。窓は大きくも小さくもなれるんだ」

「でも毒キノコなんて見えないよ?」

「そんなことはない。もっとよく見てごらん」

 僕はじっと目を凝らしました。すると、

「見えた! 見えた! 窓の向こうに、紫色のキノコが二人いるよ」

「そうだね」

「でも踊ってなんかいないよ。こっちに手を伸ばしてる」

「そうだね。二つ手を伸ばしてるね」

「違うよ、四つだよ」

「そうだね。二人だから四つだ」

「あっ! 毒キノコがどんどん近づいてくるよ!」

「そうだね」

「窓もどんどん大きくなって、あっ!」

 目の前のピンクの窓から、毒キノコの両手がすっと伸び、おじさんを捕まえていきました。

 僕の方にも毒キノコの両手が伸び、僕を捕まえていきました。


 それからはみんなご存知の通り。おじさんと僕は毒キノコたちと楽しく踊りました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る