第2話

「もしもタイムマシーンがあったら、いつの誰に会いたい?」




 中学校2年生だった。

 窓からぬるい風が吹き込み、ベージュ色のカーテンを踊らせているのを眺めている。


 教室の中心にはいつものように、スカート丈の短い女子達が集まって何やらキャッキャ話している。


 誰が好きだとか、誰と付き合っているとか

 女子達はそういう話と、

 人の悪口を言うのがとても好きな生き物だ。


 たとえ、それが同じグループにいる女子でも…当人がいない隙に言い合っている

 ということに、気が付いていないのだろうか?


 私は好きというのはよくわからないし、

 付き合うというのがどういうことかさっぱりわからない。



 私は女子のグループ 外 の人間だ。

 いないものとして扱われていた。


 この目つきのわるい三白眼が災いしているのか?

 日頃、鏡を見ることはあまりないけど、

 彼女達の反応から察するに余程醜い姿をしているのだろう。


 時おり「キモい 邪魔 しねばいいのに」

 そんな言葉がカッターの刃のように刺さり心に傷を作るので、

 自分を守るために、感情を表に出さないように閉ざしていた。


 私は、彼女達のような人間にはならない。

 そう思いつつも、自分のことがどうしようもなく嫌いだった。


 小さく、ため息がこぼれる。


 しんでしまおうかな


 と思ったことが、きっと誰にでも一度はあるのではないだろうか。


 生きていてごめんなさい。


 もしも私ひとりの命と引き換えに世界が救えるのなら、そんな素敵なことはないのにな。



 気づかれないよう、こっそり携帯電話を開いては、

 そんなとりとめのない言葉をメモしている。


 SNS(チャッター)に女子達への恨みつらみをつぶやいているわけではない。

 自分の気持ちを色々なものに例えて、しっくりくる形にするのが『茶露』なりの詩作だ。


 昨日の夜のことも、『茶露』的には納得のいく詩に仕上がった。

 タイトルは「コンペイトウの夜」にした。





『ちゃとら』のフォロワーは、あれから何人か増えたようだ。


 画像を見たところ、ひらひらした花柄のロングスカートをはいたり

 女性らしい服装をしているので、私とは世界が違う人だと思った。


 鎖骨まで伸びた髪がきれいなお姉さん。

 私もできるものなら、これくらい髪を伸ばしてみたいものだが、

 嫌な気分になるとすぐに髪を短く切ってしまう癖があるので、なかなか伸ばすことができない。


 あと、『ちゃとら』は眼鏡をかけている。

 私は視力だけは良くて、両目2.0なので眼鏡とは無縁だ。


 動画も上がっている…アコースティックギターのようなものを抱えて歌っているようだ。

(私はギターに憧れはあるものの、自分が楽器を買うということを思いついたことはない。)


 興味が沸いた私は、動画を後で見ることにして「フォローする」ボタンを押した。





 その日の夜も、昨日と同じように私は公園で猫也と遊んだ。


 約束はしないし、特に言葉は交わさない。

 それでも、わかり合っているような気がしていた。


 その時は、まだ。

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