第3話

 ― 『茶露』からフォロバが来た。

(茶露がフォローを返して相互フォローになった。)


『ちゃとら』は、紺色のソファーに座っていた。かたわらにはモフモフのトラ猫が丸くなり、すやすやと眠っている。


小さめのクラシックギター(YANAHA CS40J)の弦を一本一本弾いて、チューニングを済ませると

 無意識に指でくっと眼鏡を上げた。


 反対側にiPhoneのボイスメモを起動して置き、

 小さなメモ帳に書かれた手書きの歌詞とコードに目をやると、弦に指を置いた。



 REC●


 ―録音開始




「コンペイトウの夜」


 お月様に手を伸ばす

 ジャングルジムの上で

 君は笑っている


 私もそこへ連れて行って

 君の瞳みたいな夜の中に

 コンペイトウが降る



 毛糸玉のお月様

 ほどけるように転がそう

 絡みついたお星さま

 揺れるよシャララ…


 追いかけてもとどかない

 なんて知らないふり

 猫じゃらしのお月様

 ジャンプだ ほらあと少し


 タッチして落っこちてきたら

 ボールにして遊んでやろう

 君の瞳にコンペイトウが降る



 猫缶ころがるコンクリート

 時計気にせず飛んでいこう

 リンリン鈴の音鳴らし

 お願い夢でもいいから…


 君は笑っている





 ------------------


 すぅ、と空気を吸うと彼の名前を呼んだ。


「猫也!!!」


 思いのほか大きな声が出てしまった。


 学校終わり、下校の時間


 私は帰り道と反対方向の、遠くに小さな後ろ姿を見つけたのだ。


 猫也も驚いて振り返る。


 私が大きく手を振ってバイバイすると、


 猫也は肩をすくめて小さく手を振り返してくれたので、

 私は満足していつもの帰り道を足早に歩き始める。


 学校を休もうと思ったことはない。

(休むという選択肢を思いついたことはなかった。)


 今は猫也を見るために登校していると言っても過言ではない。


 最初は気付かなかったけど、猫也はかなり、かわいい顔をしている。

 男子に言う言葉ではないかもしれないけど。


 ぽてぽて歩きながら携帯電話を開く。

 ちゃとらの新しい動画がアップされている。


 そうだ、後で見ようと思って忘れていた。

 音量に注意して、動画を再生する。


 ん?



 は??



 へ???



 ちょっと待って



『ちゃとら』、私が投稿した詩に…曲をつけて歌っている!

 予想外のことに、久しぶりに動揺した。

 ヤバい、ヤバい。


『茶露』の詩に…曲をつけて歌っている!


 家についてから何度も、何度も その動画を再生した。


 こんな時、何てお返事したらいいのだろう?

 気の利いたことは言えないけど、何かお返事しないと後で後悔するかも…


 考えに考えた末、「ありがとうございます」とリプライ(お返事)を送った。


『ちゃとら』は、お世辞にも上手ではない。

 でも、何だかとてもちょうどいい感じに聞こえた。


 いいな。


 私が初めてギターで弾き語りしているのを見たのは、去年の学校祭だった。

 他には誰もやる人はいなかったけど、男子がひとりで弾き語りしているのを見て、引き込まれた。

 CDをもらったけど、なくしてしまったんだ。

 そういえば、彼も眼鏡 だったな。


 私にもギターが弾けたら…曲が作れたら、いいんだけどな。





 その夜も公園に行ったけど、猫也は来なかった。

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