第32話 天国の扉

「天国の……扉?」


 御子はエンターキーを押し、検索結果を表示する。

 そして、一番トップに出てきたサイトをクリックした。


「これがあいつらが運営してるサイト。今のカルト共は自分達の公式サイトも宣伝の一環として作ってるんだよね。びっくり」


 数秒で読み込みが終わり、トップページが表示される。

 サイトのデザインは白を基準にしており、まるで少しお洒落な雰囲気のカフェのようだったが、それが逆に“胡散臭い”と感じてしまった。


「一応、信仰とか信念みたいなの書いてあるけど、見る?」


「そうだな……見せてくれ」


 御子はページを下に移動スクロールする。

 そこには書かれていたのは──やれ、この世界は天の国と繋がっているのだとか、人類は皆、共通の父と母から誕生したとか、見ているだけで頭が痛くなるような内容だった。

 このような文面を真に受ける者がいるのだろうか。あまり、こういう宗教的な要素に口出しはしたくないが──それでも、こいつらが呪いで殺人を繰り返している集団だと思うと、平和を謡っている文面は荒唐無稽な内容に見えてしまった。


「これ……本気で信じていると思うか?」


「信じてるんじゃない? だって、今時新興宗教団体なんて、よっぽどの信仰を持ってないとやってないでしょ。歴史的に見ても、この手の思想が流行ったのは大体20年から30年前で、大体は金儲けが目的だったんだけど、最近はめっきり見ないものなんだよね。その時期の世紀末って終末思想が流行ってたから、それこそ新興宗教のバブル期だったらしいよ」


 終末思想──というと、1999年に訪れると言われていた、アンゴルモアの大王の話だろうか。世界が滅びるとか何とか。

 今考えてみると、とても馬鹿らしい話だが、当時の世論は本気でそれを信じている人もいたのだろう。

 実際に、俺が小学生か中学生の頃にも、その手の思想が流行ったことがある。

 当時の自分が何を思っていたかはあまり覚えてないが、多分──友人達と、本気で世界が滅びたらどうするかなんて話を真剣に語っていたような記憶があった。

 まだ子供だったということもあると思うが、世界が滅びるという大規模な災害は大きなイベントのように見えていたのかもしれない。

 その雰囲気が社会的に影響を及ぼしていたのが、80年代、90年代なのだろうか。



「でも、まあ蓮くんも知ってる通り、日本での新興宗教ブームは“あの事件”で縮小したんだよね。それが尾を引いて、今でもその手の宗教にアレルギーを持ってる人って多いし」


「そ、そうなのか」


「うん、だから現代だと宗教はそこまでお金にならないってのが定説なんだよねぇ。そんなことをするよりも、金儲けだけなら今はネットサロンとか、それこそ詐欺でもやった方が楽だよ。神を信じさせるよりも、個人を神のように見せて、信者を増やす方がよっぽど効率的。だからこそ、今時……こんな古典的な宗教がこの近くにあるのは私も少し驚いたよ。それも、結構大々的に活動しているみたいだし」


 御子はマウスを動かし、トップページから別のリンクに移動する。

 そこには巨大な建築物の写真が掲載されていた。周囲の景色は森のような場所であり、人が暮らすには不便そうだというのが、最初に思った感想だった。


「なんだこれ……学校か?」


「そう、こいつら廃校になった学校を買い取って、そこで信者達で共同生活してるみたいなんだよね。場所はなんと、大学の近くの山の中」


「……ここから、だいぶ近いな」


 場所にも驚いたが、その掲載された写真から察したのは──随分本格的な宗教だ。確かに、御子が驚くのも分かる。

 他にも写真がいくつか掲載されており、そこには信者らしき人物が、農園や家畜小屋、川から水を採取している様子が写っていた。

 都会から離れて、自給自足の生活をしているのだろうか。


「正直、ここまでやってるとなると……私腹を肥やすために作られた宗教とは考えにくいよね。もっと、別の目的があるように見える」


「それが……呪いをばら撒いてるのと、関係しているのか?」


「少なくとも、私はそう思っているよ」


「…………」


 沈黙してしまった。

 もし、仮に、それが真実だとすれば──俺の予想より、事態は深刻なのではないだろうか。

 まさか、あいつらは本当にテロか何かを企てているのではないだろうか。

 ふと、記憶の片隅にあった──呪いの影響で殺人を犯してしまった被害者の部屋にあった一文を思い出す。


 かまかみ あともうすぐ 4年後。


 あの事件から、4年目の今年──何を起こそうとしているんだ。この“天国の扉”という団体は。


「御子、どうするんだ? これから」


「そうだねぇ。私個人的には蓮くんの呪いさえ解除するなら、こいつらが何をしようがどうでもいいかな。でも、そのためには……こいつらと接触コンタクトを取る必要があるよね」


「ま、まさか……また、直接乗り込むのか?」


 その問いに──御子は妖しく笑った。

 どうやら、本気のようだ。あの老婆の時と同じように、御子はこいつらに殴り込みを仕掛けようとしていた。

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