第31話 呪い返し
「な、なんなんだよ……こいつら……」
見知った顔は誰一人いない。
一番若いやつで20代後半ぐらいだろうか、中には老婆と同じくらいの年齢の者も混じっており、共通性、一貫性が全くない集団だ。
集団で呪いを行っているグループがおり、老婆もそれに属しているのではないかと予想はしていたが──こうやって実際に見てみると、言葉で言い表せない不気味さを感じる。
ビデオは数秒間、その集団を捉えていた。
だが、すぐにそいつらは一斉に左方向へと首を振り、何かを睨みつけているような挙動を取る。
カメラの端から現れたのは──御子の姿だった。
奴等は威嚇をする猫のように、御子に向かって、口を歪ませていた。
現れた御子の手には何かが握られている。
「……んっ!?」
何を持っているのかと疑問に思ったその瞬間、御子が持っている“物”から──触手のような“黒い影”が出現した。
あ、あれは──まるで──俺を襲ってきた影と同様のものに見える。
触手の影は奴等へ纏わり付くように伸び、それを見た奴等は一目散に逃げて行った。
「御子……これは……」
「呪い返しってやつだね。ほら、これ使ったの」
スッと、御子はポケットから、ある物を取り出す。
それは──あの“彁混神”の像だった。
「どうやらあいつら、これを媒体にして、呪いをかけてたみたいなんだよね。だから、それを利用して……こっちも呪いを返してやったの。人を呪わば穴二つ、って言うでしょ? 呪いってね、それがどういう性質なのか、解析することさえ出来れば……逆探知をするように、簡単にこっちもそれを利用することが出来るんだよね」
奴等の呪いを逆に利用した、ということだろうか。
専門的なことは何も分からないが、奴等に一矢報いてやったのは理解できた。
「そ、それで……どうなったんだ、こいつら?」
「さあ? そのまま影を直接送り込んでやったから、私達と同じように、追われてるんじゃない? 今はそれより、こいつらの“正体”についての方が重要だよ」
そうだ。確かに、その通りだ。
御子はこの呪いを繰り返している奴等の正体を掴んだと言っていた。
今、こいつらがどこにいるのか、知っているのか。
「その正体って、誰なんだ……?」
「さっきも言った通り、こいつらが徒党を組んで呪いを行っているってのは私も襲われてすぐに気付いたんだ。そうすると……重要なのが、何のためにそんなことをしているか、その目的は何なのか、ってことになるよね」
「あ、あぁ。確かに、そうだな」
「カメラに映っている顔を見る限り、性別も、年齢もバラバラ。でも、こいつらは何かしらの共通の目的を持って、無関係の人間に呪いをばら撒いている。あの婆さんもその一人だった。その手掛かりはあの家にあるんじゃないか、って思ってこっそり行ってみたんだよね」
「行ってみた……? 老婆の家にか?」
既に空き家とはいえ、あの家は数日前に自殺が起こった現場だ。
いつか見た刑事ドラマのように、立ち入り禁止のテープが張られていてもおかしくはない。
そんな易々と入っていい場所じゃない、はずなのだが──今はそんなことを言っている場合ではないか。
「うん、真夜中にこっそりとね。で、探してみたら……見つけた。警察もまだそこまで詳しく現場検証してなかったみたいで、あの神棚の奥に、ご丁寧に隠してあったよ。それが、これ」
御子はバッグから、ある一枚の紙を差し出した。
「これ、呪いの指令書」
「し、指令書……だと?」
どのような内容が書いてあるのか気になり、手に取って目を通してみる。
その内容は──いくつかの文字は潰れていて、解読できなかったが、御子の言う通り、何者かが老婆に向けて書いた物であることは分かった。
しかし、なんだ、この文章は。
指令書の内容は以下の通りだった。
『神の選定において、新たな使者が判明したので、それをここに記す』
文頭にこのようなことが書かれ、そこから先はある人物の名が書かれていた。
その名は──“白川蓮”。俺の名前だった。
「……俺かよ」
読み進めてみると、他にも学歴や家族構成など、俺の個人情報が事細かに記述されている。
無論、亡くなった母のことも──書かれていた。
ど、どうやってここまで調べたんだ。探偵でも雇ったのか。
いや、今は俺の情報はどうでもいい。それより重要なのが文頭に記されている、“神の選定”という言葉だ。
神、だと。あの集団の正体はまさか──
「御子……これって」
「この“神”ってのは“彁混神”に間違いないね。つまり、婆さんに指令を送ったのも、家の前に集まっていたあの集団も、この神を信仰している──“
「そうなる……よな」
カルト、ゲームや映画でよく聞く言葉だ。
神だの悪魔だのを崇拝して、危険な思想を持っている宗教団体、で合っているのだろうか。
日本でも何十年か前に、地下鉄で大々的な事件を起こして犠牲者が大勢出てしまったのは世代ではない俺でも知っている。
そのカルト集団が──本当の黒幕だった、のか。
「で、そこから先は簡単だったよ。この周辺で、そんな活動をしている集団がいるかどうか、ネットで検索したら一発で出た。それが……こいつら」
御子はパソコンの画面をカメラからインターネットに切り替えて、キーボードを鳴らしながら、文字を打ち込む。
『天国の扉』
検索バーには──そのような単語が出ていた。
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