第29話
ヒューレッドは意識の無いマリアさんを背負い宿に部屋を取った。
マリアさんを宿屋のベッドにゆっくりと横たえてから、ヒューレッドはこれからのことを考えた。
この町にヒューレッドがいることはマリルリにバレている。それならば堂々と宿屋に泊るのが得策だと判断したのだ。
マリルリからはきっと逃げられないだろう。
(……せっかくセレスティア様が転移の魔法で逃がしてくれたのに無駄になってしまった。)
国境を抜ければマリルリの力が及ばないことはわかっている。だが、セレスティアが生きていることもマリルリには知られてしまったのだ。
このまま国境を抜けてイーストシティ共和国に向かったらマリルリは、セレスティアを人質にとるかもしれない。だからと言って、大人しくマリルリの元に向かっても、今のヒューレッドにはマリルリに対抗する力もない。
だが、ヒューレッドがマリルリと結婚することでセレスティアやマリアのことはもしかしたら見逃してくれるかもしれない。
ヒューレッドはそう思った。皆が助かるなら自分はマリルリの元に行く、と。
「……ダメなのー。それはダメなのー。セレスティア許さない。」
ヒューレッドはマリルリの元に向かう苦渋の決心をした。だが、ヒューレッドの心の内を見越したようにフワフワが待ったをかける。
「どうして?それがセレスティア様のためにも、マリアさんのためにも、フワフワのためにも良いと思うんだ。オレがマリルリのところに行けば、セレスティア様もマリアさんもフワフワも守ることができる。オレが、マリルリのところに行かなければ、セレスティア様たちはマリルリに殺されるかもしれない。」
「……それでも、ダメなのー。ヒューは唯一の希望。セレスティア様の唯一の希望なの。だから、ダメなの。マリルリのところに行ったらダメなの。」
「……オレが……セレスティア様の……希望?こんな、なにも出来ないオレが……?マリアさんもマリルリから守れなかったんだ。だから、マリアさんはこうして意識がない状態だ。それでも……なにもできないオレがセレスティア様の希望だというのか?」
悔しい。
ヒューレッドの目の前でマリアがマリルリに危害を加えられたのだ。ヒューレッドはそれを黙って見ているしかなかったのだ。マリルリの行動を止めることもできなかった。
(オレがセレスティア様の希望……?あり得ない。なにも出来ないオレが……セレスティア様を助けられるだなんて思えない。)
それなのに、そんな不甲斐ないヒューレッドにフワフワはマリルリの元に行くのを止めようとする。
「フワフワ、残念だけど、オレには力がないんだ。なんの力もないんだ。だから、マリルリのところに行くしか、皆を守る術はないんだよ。」
ヒューレッドは悔しさに打ちひしがれながらも、フワフワに告げる。これが最善の決断だと。
「ダメなのー。ヒュー諦めちゃダメなのー。」
「でもっ!でも、オレは何もできない!!無力なんだよ……。」
フワフワがヒューレッドを慰めるように頬をペロペロと舐めるが、ヒューレッドにはそれほど効果がなかった。
「……つぅ。あーーーーっもう!頭がガンガンしてんだから、二人でもめないでよね!!」
「っ!?」
「にゃっ!?」
ヒューレッドとフワフワのやり取りに苛立ったマリアが声を上げた。
どうやら意識が回復したようである。
マリアはガンガンと痛む頭を右手で押さえながらゆっくりとベッドから上半身を起こした。
「マリアさんっ!!大丈夫なのかっ!!」
ヒューレッドは意識を回復させたマリアを見て驚いて大声を上げてマリアの肩を掴んだ。
「ちょっ!!だから、頭がガンガンするんだからっ!!大声出さないでってばっ!!」
「あっ。すまない……。」
「マリア、目を覚ましてよかったのー。」
フワフワも安心したようにマリアの側にスルッと近寄って、マリアの腕に頬ずりをしている。
「……まったく、あんたはバカなのっ!?マリルリの言う通りなんてしたら、マリルリがつけあがるだけじゃないっ!マリルリがセレスティア様やフワフワや私を守るとでも思うのっ!!絶対、秘密裏に殺しに来るに決まってるじゃない!!まあ、マリルリからしたら私やフワフワのことは放っておくかもしれないけど、セレスティア様のことは目の敵にしているのよ!セレスティア様が生きているって知ったらどんな手を使ってもセレスティア様を殺そうとするわ!!」
マリアはヒューレッドを怒鳴りつける。
あまりの声量にフワフワもヒューレッドも耳をふさいだ。
「そうは言うけど……オレには……オレには、マリルリを倒すだけの力はないんだ。無力なんだよ。オレは……。だから、マリルリに命乞いをするぐらいしか……。」
「諦めないでよ。あんたがセレスティア様の唯一の希望なのよ。諦めたらそこで全てが終わっちゃう。この国が終わっちゃうのよ。この国が全てマリルリのものになっちゃうのよ。」
マリアは目に涙をいっぱい溜めながらヒューレッドに懇願した。
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