41.アイオンの覚醒

「顔つきが変わりましたね」


 ファルミナはアイオンの様子が先ほどまでとはまるで違うことに気がついた。


「先ほどまでは隙だらけでしたのに。

 本当に何があったのですか?」


 アイオンの豹変に戸惑うファルミナ。

しかし、ここで引くわけにもいかないためファルミナは、両手で薙刀ニヴルを構えて対峙した。


「さっきまでは弱っちくてすまなかったな。

 ここからが本番だ!!」


 ファルミナが真剣な表情で自分に対峙したことを確認したアイオンは、一瞬だけ笑みを浮かべるとファルミナへ向けて突進を始めた。

アイオンは突進の勢いをそのまま生かした両手突きを放つ。

先ほどまでの突きとは速度もキレも段違いなそれをファルミナは、かろうじて左後方に受け流すのが限界であった。


「ここだ!」


 アイオンは一歩踏み込み、ファルミナがいなした刃の軌道を強引に変えて上に切り上げた。

この反撃を予測できていなかったファルミナには、回避も防御も無理であった。

そして、ファルミナの左腕が宙を舞った。


「うぐ……」


 左肘を抑えながら、うずくまるファルミナの眉間に剣がそえられる。


「形勢逆転だな」


「……悔しい限りですが、私の完敗ですね。

 そのままひと思いにやってくださって結構ですよ」


 ファルミナは薙刀ニヴルを手放し、目を閉じた。

そして、このまま自分の命が尽きることを受け入れて、心の中で謝罪の言葉を綴った。


『フェリシアさま、お役に立てずに申し訳ありません』


 フェリシアへの想いを巡らせているファルミナは、首筋に激しい衝撃を受け、意識を手放した。


「俺にはお前の命までは奪えない、立場は違ったがお前はお前の正義を貫いていた。

 全てが終わるまで、ここでゆっくりしていてくれ。

 ……じゃあな」


 アイオンがファルミナの元を去り、ファウストの元に向おうと思ったその時、大きな爆音が響き渡った。

そして、アイオンはその爆音の発生源であろう場所にむけて走り出した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 ファルミナの立ち回りにより、アイオンが徐々にファウストと引き離されたその頃、ファウストの攻撃は激しさを増していた。


「あはははハハははハ!

 逃げ回るしかできないとか、滑稽ですね。

 手を抜いてあげてるんですから、反撃の一つでもしてくださいよ!」


 楽しげな表情を浮かべるファウスト。

対するメラゾフィスは涼し気な表情のまま、その攻撃を回避し続けていた。


「はぁ、そろそろいいでしょうか?

 なにやら楽しそうにしてらっしゃいますけど、ファルミナがあの勇者くんを引き連れていくまでの時間を稼いでただけなことに気が付いてないのですか?」


「そんなくだらないことをしていることは、当然わかってるさ。

 ボクにとってはそんなことはどうでもイインダヨ」


 火球を放つのをやめたファウストは、右手に巨大な炎の槍を、左手に巨大な氷の槍を生成した。


「ペースをあげるよ!!」


 ファウストが放った炎と氷の槍が、メラゾフィスに次々と襲い掛かる。

攻撃の量も質も跳ね上がっているが、メラゾフィスは先ほどまでと変わらない涼し気な表情のまま、全てをレイピアアルフで切り払った。


「この程度で本気なのですか?

 そろそろ飽きてきましたので、終わりにしましょうか」


 メラゾフィスが素早く右腕を振るうと、レイピアアルフがファウストの右腕に刺さっていた。


「爆ぜろ、アルフ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る