英雄ですが、人間不信になったので魔王を愛することに決めました

４０．不穏な関係

　「ぐはっ……」

　突如として崩れ落ちるファルミナ。

口から溢れでる血がみるみるうちに大地を染める。

状況がつかめないアイオンがその場で立ち尽くしていると、倒れたファルミナの背後に高笑いをするファウストがいた。

「あーはっははは！！

　魔族ごときと本当に正々堂々の一騎打ちなどするわけがないでしょう！！

　汚らわしい！！」

　ファルミナの意識がアイオンのみに向いた瞬間、​魔術で巨大な土杭を放ち、背後から不意打ちしたのだった。

「ファウスト！！！！！！！！

　おまえはなんてことするんだ！！！！！」

　アイオンがファウストの行動に激怒し、​胸ぐらを掴もうとしたが、そこにファウストの姿はなかった。

「だから我は言ったじゃないですか、人間などを信じたりしてはいけないと」

　ファウストを造作もなく吹き飛ばし、そこに現れたのは銀髪オールバックでモノクルを付けた執事風の男であった。

その男はアイオンのことなど眼中にないというかの如く、ファルミナの元に歩み寄り、光り輝く魔術をかけた。

「ん……、メラゾフィスか。

　助けられたみたいですね、感謝します」

　目を覚ましたファルミナは状況を把握すると、メラゾフィスに謝罪した。

そして、二人はファウストの元に駆け寄ったアイオンたちを睨みつけた。

「魔族ごときがボクを吹き飛ばしただと！！！！」

「ファウスト落ち着け！！

　あいつらは強敵だ、二人であいつらを排除するぞ！」

「うるさい！！

　ボクはあの男を殺る（やる）！！

　あの女はアイオンに任せたよ！」

　アイオンはファウストに文句を言いたかったが、それが許されないことも感じ取っており、グッと言葉を飲み込むように頷いた（うなずいた）。

「あの魔術師は我とやりたいみたいですね。

　ファルミナ、勇者は任せましたよ」

「もちろん。

　このまま引き下がるわけには行きませんからね！」

　ファルミナは薙刀（ニヴル）を、メラゾフィスはレイピア（アルフ）をそれぞれ手に持ち、勇者と大魔術師を迎え撃つべく構えた。

　ファウストがメラゾフィスに向けて放った巨大な火球と交差するように、ファルミナは疾風のごとくアイオンに迫る。

その動きは軽快であり、ファウストとアイオンを引き離すように動いていた。

　無数に飛んでくる火球をレイピア（アルフ）で払いのけ続けるメラゾフィス。

徐々にファウストとアイオンの距離を離すように立ち回っているファルミナ。

　そのことを察しているアイオンであったが、ファルミナの立ち回りやメラゾフィスが弾き飛ばしてくる火球に阻まれて、アイオンたちは孤立する一方であった。

「まさか俺たちより連携が上手いとはな」

「あなたはまだしも、あの魔術師くんに連携なんてする気はないでしょう」

　痛いところを突かれたアイオンであったが、気持ちを切り替えてファルミナと対峙した。

「さっきはファウストが失礼なことをした。

　今度こそ、正々堂々の一騎打ちをしようじゃないか！！」

　アイオンが先ほどと同じように放った片手突きを、ファルミナは薙刀（ニヴル）で後ろへと受け流しながら背後へと回り込み、アイオンの背を横に切り払った。

受け流されバランスを失った無防備の背中に追撃を受けたアイオン。

前方に転がるようにしてなんとか回避はしたものの、誰の目から見ても劣勢なのは明らかであった。

「弱すぎるのですが……

　それで本気なのですか？」

「なん……　だと！」

　何気なくふとこぼれ出たファルミナの言葉に、アイオンのプライドは激しく傷つけられ、相手を殺さんばかりににらみ付けた。

その時、彼の脳裏に師匠マサラの言葉が響いた。

『剣は鏡だ。

　怒りや迷いに任せて自分を見失ったものが振れば、その刃は自分へと返ってくる。

　心を太刀筋で満たせ』

　特訓中に何度も聞いた師匠の言葉が思い出され、アイオンは冷静さを取り戻した。

「師匠……」

　先ほどまでの殺気や怒気が消え去ったアイオンは、両手で聖剣（せいけん）アークを持ち、正眼の構えでファルミナに相対した。