42.秘匿された存在

 メラゾフィスの言葉に反応するようにレイピアアルフは、ファウストの右腕と共に爆散ばくさんした。


「我の血よりできた血器けっきアルフ。

 我の意思で爆散も形状変化も自由なのですよ」


 ファウストは急な痛みに襲われ、痛みの方向へ視線を向けると腕がないことに気が付き、その場にうずくまった。


「腕がァッ!

 ぼクのウデがァァっつ」


 ファウストを見下すように見ているメラゾフィスは、吐き捨てるように言い放った。


「力量差も理解できない、仲間と助け合うことすらしようともしないお前は、このまま消え去りなさい」


 メラゾフィスが右手をファウストにむけて伸ばすと、ファウストを黒い闇が包み込んだ。

徐々に小さくなっていく闇。


「もう幕引きにしてしまいましょう」


 メラゾフィスの言葉をトリガーに闇は圧縮し消え去った、中にいたはずのファウストと共に。


「さて、ファルミナは大丈夫でしょうか」


 メラゾフィスがこの場を後にしようとした時、突然爆発が起こった。

突然の出来事に見構えるメラゾフィス。

爆発によって発生した土煙つちけむりが徐々に落ち着き、爆心地ばくしんちの様子が鮮明になり始めた。


「どういうことですか??!」


 土煙の中から現れたそれを見たメラゾフィスは驚愕きょうがくした。

何故なら、そこにはファウストの姿があったからである。


「グガガががガガぐがぐががががガガ……」


 姿を現したファウストは奇怪きかいな声を発声し、どす黒いオーラを背負っていた。

人のモノとは思えない、明らかに異質なオーラである。


「貴様……、何をした!?」


「うるサい……」


 ファウストの言葉を引き金に、なくなったはずの右腕が黒炎こくえんで再生し、その右腕はメラゾフィスに襲いかかった。

突然の出来事に困惑をするメラゾフィスは、再びレイピアアルフを顕現させて切り払う。

しかし、黒炎こくえんは切り払われることなく、逆にレイピアアルフを飲み込んだのである。


「なんだと?!」


 桁外れの魔力に圧倒されつつも、メラゾフィスはなんとか後ろに飛び退き、黒炎から逃れた。

そして、かろうじて自我を取り戻したファウストがゆっくりと語り始めた。


「はぁはぁはぁ……

 さすがは禁呪きんじゅ…… 

 とされているだけはありますね。

 一端いったんを開放しただけで、精神が崩壊しそうでしたが……」


「禁呪だと!?」


「かつてこの世界には、創造神である女神ユグドラシルに敵対するものとして、破壊神である邪神インペリオが存在していた。

 邪神インペリオの力はあまりにも強大であり、容易にこの世界を破壊することができるほどであったらしい」


「……」


「女神ユグドラシルはこの世界を守るために邪神インペリオをこの星の奥深くに封印した。

 しかし女神ユグドラシルであっても邪神インペリオを完全に無力化することは難しく、いくつかの凶悪な魔術がこの世界に残ってしまった。

 それらの魔術は自我と肉体を持つ不思議な存在となっており、女神ユグドラシルはそれらを禁呪とすることでその存在を秘匿し封印したらしい」


「何故人間であるお前がそんなことを知っているのだ!!」


「王国の図書館、その最奥にまさにそれが封印されているのを見つけたんだよ」


「!?」


「女神がかけた封印だ、ボクごときでは解くことはできなかった。

 でも女神がくれたこの聖杖せいじょうケルビムの力で小さな綻びを作ることはできたんだ」


「まさか……」


「たぶん正解だよ。

 ボクの中には邪神インペリオが残した禁呪のうちの一つ【クルーシオ】、その意思と力の一部が宿っテいるンダ。

 ボクはこのチカラでおマエたちを魔王をタオす……


 でも……

 そろそロおシャべリモ限界みタイだネ……」


 口調がたどたどしくなったファウストはそのまま倒れ込んだ。

その体からどす黒い靄どすくろいもやが発生し、それは膨らみ始めた。

事態が飲み込めないメラゾフィスはそれから回避しようと思ったが、膨張の速度が速すぎて頭部以外は巻き込まれてしまった。


 しばらくすると、そのどす黒い靄どすくろいもやは霧散したが、その場にはメラゾフィスの頭部のみが残されていた。

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