38.両陣営

「ルイン陛下、俺とファウストにご命令ください。

 魔王城へ赴きおもむき、悪しき魔王を討伐せよと」


 兵士の報告の動揺が収まりきっていない中、アイオンはルイン王に進言をした。

そして、これにファウストも追随する。


「お願いします、ルイン陛下。

 ボクたちに魔王と裏切者であるクラウスを討てとご命令ください!」


 ファウストの表情が今までとは違って鬼気迫るものであったことに違和感を覚えるルイン王であったが、この二人を討伐に向かわせるしかない状況であることは、明らかであった。

そして、ルイン王は、レムリアが率いる王国騎士団を筆頭とした王国軍を魔王軍の正面からぶつけ、その隙をついてアイオンとファウストに魔王城へと侵入するように命じたのだった。


「ルイン陛下、誠にありがとうございます。

 必ずやご期待にお応えします」


 アイオンの力強い言葉を聞いたルイン王は、笑みを浮かべながらも内心は不安であった。

前回、まったく歯が立たなかった相手に二人は戦えるのであろうかと。

アイオンは修行により前回より強くなっていると思われるが、ファウストは特に変化がないままなのではないかと。


「ルイン陛下、大丈夫ですよ。

 ボクだって前回クラウスたちと戦ったときより強くはなってますよ」


 不敵な笑みを浮かべながらそう言うファウストに、ルイン王は心を見透かされたようで不気味に思うも、そのことを悟られない様に取り繕った。


「そのような心配はしておらぬのじゃ。

 おぬしらは、王国が信頼する勇者と大魔術師なのじゃからな!

 戦果を期待しておるぞ」


 アイオンとファウストはルイン王の言葉に頭を下げると、そのまま謁見の間をあとにした。

以前の出立時に感じた希望に満ちた気高き瞳が、今は淀み感情が入り乱れた眼光していることに一同は気が付いていたが、ファウストがまとう仄暗いほのぐらい気配に皆は気圧され、誰一人それを追求することができなかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「フェリシアさま!

 ついに王国に動きがありました!」


 ファルミナが息を切らしながらフェリシアの元へやってきて、報告した。

王国軍が魔王城に向けて進軍を始めたと。


「ここまでは全て予定通りじゃの。

 王国軍はバルトが指揮する帝国軍で応戦するのじゃ、決して無理に勝とうとしなくて良い。

 目的は王国軍との戦闘を長引かせ、人族同士で消耗させることじゃからな」


 フェリシアの言葉に無言で頷いたバルトは、そのままその場をあとにした。


「このあとは予定通りに俺とフェリシアを倒しにアイオンたちがここまでやってくるだろうな」


「そうでなくてはあたしたちが暇になってしまうわ。

 それではフェリさま、われらも予定通り勇者たちを迎え討つ準備をします」


 ラースがそういうと、ファルミナとメラゾフィスもそれに頷き、部屋を後にした。


「だけど本当に良かったのか?

 一人づつアイオン達に向かわせるなんて必要ないだろ?

 わざわざこっちの戦力を分散までさせて……」


「わらわはあの4人を信頼しておるのじゃ。

 その4人が大丈夫じゃというなら信じて送り出してやるのも、上に立つものの責任じゃろうて」


「そうかもしれないけどさ、万が一を考えると……」


「おまえさま、それ以上は言うではない。

 それはあの4人の覚悟を侮辱することじゃぞ」


 フェリシアの言葉を受けて、ハッとした表情を浮かべるクラウス。

心配をするあまり自分が失礼なことを発言しようとしていたことに気が付いたのであった。


「そうだな、すまない」


「いや、いいのじゃ。

 本来ならまったく心配などしなくて良いわらわたちのことを、そこまで気にかけてくれることが嬉しいのじゃからな」


 クラウスは満面の笑みを浮かべるフェリシアをそっと抱きしめた。

そして、この先に待っているであろう過酷な戦いのことを考え、かつての仲間ともと相対する覚悟を新たにするのだった。


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