37話.帝都の異変

 無事に魔族の幹部である4人と再会を果たしたクラウスとフェリシアたちは、謁見の間に集まっていた。


「しかし本当に帝国を乗っ取っておったとはのぉ」


 フェリシアが呆れたような口調でそう言うと、帝座ていざに座っている皇帝ガルシア・ゼノン3世の頭を撫でながらラースが答えた。


「仕方がなかったのですよ。

 フェリさまが決めた通りに人族と仲良くしようとしても、人族は話も聞かずに攻撃してきます。

 人族を傷つけずに、自分たちも守るためには…… と悩んでいた時に、バルトと再会して、この案を思いつきました」


 フェリシアがバルトの顔をみると、大きく静かに頷いた。

すると、クラウスがフェリシアを背後より抱きしめながら話し始めた。


「おちつけ、フェリシア。

 二人ともおまえの考えに賛同して、自分たちなりに最善を尽くした結果なんだから認めてやるべきだと思うぞ」


 バルトとラースが自分の願いに従っていなかったのではないか?という疑念をフェリシアがもっていることに、クラウスは気がついていた。

そして、そうではないということを優しく諭したやさしくさとしたのであった。


「それに人族と戦うことを決めた俺たちにとって、帝国を自由に操れることは大きいからな」


「そうなんじゃがのぉ」


「魔王さま、俺たちは魔王さまの気持ちを裏切るつもりは一切ありません。

 自分たちの身を守るために帝国を乗っ取りましたが、不必要に人族を殺したりなどもしておりません」


 バルトの言う通り、この国は人族を中心とした他種族国家としてにぎわっており、決して人族が迫害されるなどということにはなっていないのである。


「まぁそうじゃの……、わらわのわがままに付き合わせてしもうて、ありがとなのじゃ。

 ……皆とは合流できたわけじゃが、これからどうするかの」


 フェリシアがこれからの計画について悩んでいると、クラウスが話しはじめた。


「帝国が王国に宣戦布告するってのは、どうだ??」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 そのころ、シトラス王国の謁見の間では、アイオンとファウストがルイン王に謁見していた。


「二人ともよくぞ参った。

 修行の手応えはどうじゃ?」


刀匠とうしょうのマサラ殿に師事し、つい先日まで厳しい特訓をしておりました。」


「ボクは……

 王立図書館で、禁呪と呼ばれる魔術について調べていました。」


「き、禁呪じゃと??!」


「魔王と……

 なにより、幼馴染みアイツと敵対するには、より強力な魔術チカラが必須です。

 禁じられるほどの魔術でも、内容が抹消されずに残っているということは、使い時がくるのを待てということでしょう。

 いまこそその時です」


 ファウストのこの言葉に、誰も異を唱えることが出来ず、その場に沈黙が流れた。

特に気にとめる様子も無く、うっすらと笑みを浮かべるファウストは、言葉をつづけた。


「まぁ、王立図書館には禁呪は保管されてませんでしたけどね」


 その時、一人の兵士が肩で息をしながら駆け込んできた。


「伝令! 伝令!!」


「今は謁見中であるぞ! 

 何をしておるのじゃ!!」


「も、申し訳ございません!!

 帝都…… 帝都が、禍々しいまがまがしい雲に覆われたとのことです!!」


 兵士の言葉に一同は耳を疑った。

そして、ルイン王は報告の続きを聞き、自分の耳を疑った。


「そのような酷いことが……

 帝国の禍々しい雲についてわかったことはないのか??」


「帝城の様子がオカシイです。

 何か異様なものへと変わってしています!!」


 兵士の報告によれば、一人の少女が帝都を雲で覆わせ、帝城の姿も変えたそうであった。

また、その時にその少女が王国に対して、宣戦布告していると商人経由でいくつも聞いていた。


「帝城を魔王城としたのか……」


「そのようです……

 しかし、宣戦布告後は特に攻めてくる様子はないそうです」


 魔王が帝国を乗っ取り、王国に宣戦布告をしたという事実。

しかし攻めてくる様子がないこと。

矛盾したようなチグハグな、何が起きているのか全くみえない事態。

どうすればいいかわからず、一同はただ困惑し、押し黙った。


「クラウスたちからの挑戦状ということか……

 俺と魔王の元まで来いと」


静寂の中、アイオンがつぶやいた。

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