32話.これから

「それって……

 ゼノン帝国が魔族に乗っ取られているってことじゃ……」


「皇族と騎士団は完全に掌握していますので、ある意味ではそうでしょうね。

 まぁ大貴族などもいるようですので、完全に自由にできる…… 

 とまではいかないと考えます」


「予想もしていなかった事態なので、驚きはしましたが……

 しかし、方針転換をしたフェリシアさまにとって好都合なのではないでしょうか?」


「帝国を完全に乗っ取れということかの?」


「はい。

 そして、帝国内の支配層を魔族のみにします」


「帝国を完全に支配下において、帝国と王国で戦争を起こさせる。

 そして、その裏で俺たちがアイオンたちを討つ…… ってことか」


「クラウスよ、これ以上進めばおぬしは本格的に人族の裏切り者となるじゃろう。

 もう後戻りできなくなるじゃろうが……

 それでもわらわと共に居てくれるか?」


 フェリシアが珍しく弱々しい声でクラウスに問いかけてきたが、それが言い終わる前にクラウスの大きな声が響いた


「フェリシア、怒るぞ。

 そんな覚悟はとっくについてるさ、俺は堕ちた英雄として魔王フェリシアと共に人族を滅ぼす」


 全く迷いが無いその言葉は、フェリシアを安心させるには十分だった。

そして、その言葉を噛みしめつつ、クラウスの胸に頭を預け、なんとか言葉を紡ぎ出した。


「愚問じゃったな、すまぬ」


 クラウスは甘えてきたフェリシアのことが愛しくなり、力強く抱きしめた。

そして、クラウスはファルミナとメラゾフィスの目をまっすぐ見つめ、真剣な表情で話し始めた。


「ファルミナ、メラゾフィス。

 俺の存在が気に入らないだろうし、信じれないとは思う。

 でも俺はここで改めて誓う、俺の命はフェリシアとともにあるということを。

 堕ちた英雄と魔王に力を貸してくれ」


 クラウスはフェリシアの頭を優しく撫でたのち、ファルミナとメラゾフィスに深々と頭を下げた。


「フェリシアさまへの想いは本物であると感じました。

 我は一旦クラウスを信じてみることにします。

 ただし、裏切ったときには……」


「あぁ、わかってる」


「はぁ、仕方ありませんね。

 私も今はクラウスを信じてみることにします。」


「二人ともありがとう」

「ありがとうなのじゃ」


 クラウスは、改めて二人に頭を下げたのち、フェリシアを強く抱きしめるのだった。


「しかしあの二人が帝国の中枢にいるとなると、会いにいくのは簡単ではありませんね」


「確かにのぉ、まさか帝城ていじょうに行くわけにもいかぬしの」


 フェリシアとファルミナが悩んでいると、メラゾフィスが厳しい表情をしながら言った。


「フェリシアさま、一つご提案がございます」


「なんじゃ?」


「このモニカ大森林にもとより住んでいた魔物たちに命令して、一斉に帝都を襲わせます」


「なっ!?」


「帝国、そして帝都の治安維持に努めるつとめるのが、騎士団の主な役目になります。

 ゆえに必ず騎士団が討伐にやってくるでしょう。

 そして、大軍勢での襲撃であれば騎士団長であるバルトも出てくるかと思われます」


「でも、それだと!」


「クラウス、確実にフェリシアさまとバルトたちが会う機会をつくることが第一ではないか?」


「確かに、そうだが……

 お前の眷属やバルトの部下に犠牲者が……」


「甘ったれるな、クラウス!

 お前の覚悟とはその程度なのか?

 我を失望させるなよ」


 メラゾフィスの言葉に何も言い返せないクラウス。

クラウスには大事の前の小事だいじのまえのしょうじとしての犠牲を受け入れることが覚悟なのかどうかわからずにいた。


「メラゾフィスよ、あまりクラウスを虐めるでない。

 クラウスは弱者が強者の都合で一方的に​虐げられることに嫌気がさしておるのじゃ」


「いや、メラゾフィスの言う通りだな。

 やると決めた以上、俺の理想を押し通すだけではダメだな」


「クラウス、それはいかんのじゃ!

 おまえさんは自分の理想を貫くのじゃ!

 人族を滅ぼすということを決めた信念が揺らぐようなことを、おまえさんがしてはならぬのじゃ!!」


 フェリシアはクラウスの両肩をつかんで必死の形相で説得した。

幼馴染や仲間さえも裏切って掲げた大義、それが揺らぐようなことをしてはいけないと。


「その一線を越えてしまったら、おまえさんは……

 おまえさんでなくなってしまう……

 たのむ、そんなおまえさんをわらわは見たくないのじゃ」


「ありがとな、フェリシア」


 心の底から心配してくれるフェリシアの愛情を嬉しく思い感謝したクラウスは、一つの案を思いつくのであった。

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