33話.新しい案

「俺が一人で帝城ていじょうまで行けばいいと思うんだ」


 クラウスは少し得意げな表情でそう言った。

そして、それを聞いたフェリシアたちは呆気にとられた表情をしていた。


「えっと、クラウスや。

 その真意を聞かせてもらえぬじゃろうか?」


「真意も何もそのままの意味だけどな。

 人族である俺は帝都内を歩きまわることに問題はないだろ?

 帝城まで行って騎士団への入団希望とでも言えば、最悪でも騎士団員に、運がよければ騎士団長さまに会えるんじゃないか」


 クラウスの言葉を聞いたフェリシアたち3人は顔を見合わせて驚いていた。


「おまえさん……、いったいどうしたのじゃ?」


「ん?

 そんな変なこと言ってるか?」


「いや、むしろ良い案すぎて驚いておるのじゃ……」


 フェリシアの言葉にファルミナとメラゾフィスは無言で深く頷いた。


「おまえらなぁ……

 ったく、失礼な奴らだ……」


 クラウスがふてくされて後ろを向いたところを、フェリシアが後ろからぎゅっと抱きしめた。


「すまんの、拗ねないでおくれや。

 わらわたちではその案は思いつかなんだ、ありがとうな。

 その役目、任せてよいか?」


 クラウスは後ろから回されたフェリシアの手をそっと掴んだ。


「もちろんだとも」


 クラウスは強い意志を秘めた言葉で応え、そして後ろへと振り向いた。

見つめ合う二人の視線は交差し、クラウスはフェリシアを抱きしめた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 見た目を人族そっくりに偽装したクラウスたち一行は、無事に帝都に到着した。

そして、フェリシアたち3人が宿にて待機し、その間にクラウスだけが帝城ていじょうへと向かった。


「おまえさんや、くれぐれも喧嘩を売らないようにな」


「俺って信頼されてるのか、されてないのか、よくわからないよな……」


 クラウスは何度も心配するフェリシアに苦笑しつつも、一人帝城ていじょうへと向かう。

クラウスにとって初めての帝都であったが、王都より自分にはあっているような気がしていた。


 王国は人族優位の国家であるため、大半の国民は人族であり、それ以外の種族はほとんど奴隷である場合が多い。

しかし、帝国は違う。

多民族の混成国家である帝国は、皇族こそ人族のみであるが、国の重役は様々な種族の者が担当している。


「だからこそ、魔族も紛れ込めたんだろうな」


 そんなことを考えながら一人歩くクラウス。

やがて、目的地である帝城ていじょうに到着した。


「待て!

 ここは帝城である!

 どのような要件だ?」


 クラウスは声をかけてきた門衛に、騎士団に入団したくてここまで来たことを伝えた。


「ん?

 今は入団希望者の募集はしてないはずだぞ」


「そうなんですか!?

 俺…… どうしても騎士団に入りたくて田舎からでてきたんです」


「そうか、それは残念だったな」


「はい……

 せめて、騎士団の方と少しだけでもお話できないですか?

 田舎に戻るにも土産話の一つくらいは……」


「んー、本当はダメなんだが……

 せっかく田舎からでてきたのなら、たしかに土産話の一つくらいは欲しいよな。

 わかった、騎士団の人に聞くだけ聞いてきてやるよ」


 門衛の一人がもう一人に留守番を頼むと城の中に入っていった。

そして、しばらくすると一人の男とともにかえって来た。


「待たせたね。

 ちょうど今休憩中の騎士の方がいてね、その方が少しならいいって言ってくれたよ」


「君が入団希望の子かな、はじめまして。

 城門前で立ち話をするわけにもいかないから、騎士団の詰所にでもいこうか」


 門衛が連れてきた騎士に笑顔で応えるクラウス。

そして、そのまま騎士団の詰所まで案内されるのであった。



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