31話.吸血鬼の里

 フェリシアたちは、見るからに獰猛どうもうそうな魔物たちの横を素通りしながらモニカ大森林の奥地へと進んでいた。


「ホントにこいつら襲ってこないんだな」


「確かにのぉ。

 魔物たちは魔王であるわらわにも躊躇なく襲い掛かってくるものじゃから不思議な感じじゃのぉ」


「この森の魔物はすべてが我と配下の眷属です。

 そして、この先にある我が里には、始祖である我と魔王であるフェリシアさまに絶対の忠誠を誓った吸血鬼とその眷属のみが暮らしておりますので、ご安心ください」


「この森には、わらわやメラゾフィスの言葉に従わないものはおらぬということじゃな」


 視界の先に隠れ里と思われるものを見つけたフェリシアは、メラゾフィスに指示を出した。


「メラゾフィスよ、先に里に行って皆に説明をするのじゃ。

 わらわが皆に話したいことがあるということと、クラウスを受け入れろ!と」


 フェリシアはファルミナの里での出来事を思い出しながら命じた。

クラウスとファルミナが苦笑いを浮かべる中、メラゾフィスは真面目な顔で頷き一人里へと向かった。


「ふぅ、さすがに今回は大丈夫じゃと信じておるが……

 クラウスよ、信じておるぞ?」


「わかってるよ。

 でも喧嘩売られたら知らないぞ?」


「今回は売られても買うんじゃない。

 その時は、わらわが説得するからの」


 フェリシアに真剣な表情を向けられたクラウスは、静かにうなずいた。

その後、メラゾフィスが戻るまでの間、3人は特に言葉を交わすこともなくゆっくりと歩を進めた。

そして、里の入り口で出迎えていたメラゾフィスと合流した4人は、里で一番大きな屋敷へとたどり着くのだった。


「フェリシアさま、皆を庭に集めてあります」


「うむ」


 フェリシアはゆっくりとした足取りで、屋敷の庭に集められてた里のもの達の前に現われた。


「久しいな、魔王フェリシアじゃ。

 わらわ達は皆に詫びをし、今後の方針を伝えるために各里を回っておるところじゃ」


 ファルミナの里のときと同じように頭を下げた。

そして、人族と​仲良くする道を選んだあの時の判断が間違っていたという謝罪の言葉を述べるのだった。


「この者の名はクラウス。

 人族ではあるが、共に人族を滅ぼさんとする わらわのパートナーであり、最愛の者じゃ!

 皆いろいろと思うところはあると思うが、すべて飲み込むのじゃ。

 わらわには、この男が必要なのじゃ」


 事前にメラゾフィスから知らされていたことであり、敬愛する魔王様のお言葉でもある。

それに異を唱える者は主従関係を何より重んじる吸血鬼たちにはいなかった。


「我ら吸血鬼は、フェリシアさまにこれからも従うのみです。」


 メラゾフィスから服従を誓う一言が出た時、この場にいたすべての吸血鬼は片膝をつきこうべを垂れた。

そして、メラゾフィスはクラウスの前まで歩み寄り手を差し出した。


「我らはフェリシアさまのお言葉に従い、クラウス殿を仲間として受け入れます。

 握手をお願いできませんか?」


 クラウスがその意図を理解できずに戸惑っていると、メラゾフィスはクラウスにだけ聞こえるような声で一言呟いたつぶやいた


「この場を収めるためにはこれくらいの演出は必要なのです、付き合いなさい」


「そんなものか?」


 クラウスはメラゾフィスの意図を理解したが、上手く笑顔になることができず、どこかぎこちない作り笑顔で、握手をした。


「無事に終わったようで何よりですよ。

 メラゾフィス、バルトとラースが今どこにいるかご存じですか?」


 今回は何事もなく終わったことに安堵の表情を浮かべるファルミナは、残りの2人の隠れ里の長についての質問をした。


「わらわもあの二人の噂はまったく聞いておらぬな。

 メラゾフィスよ、何か知っておるか?」


「あの二人とその配下でしたら、今はゼノン帝国の中枢ちゅうすうに潜り込んでおります」


「!??」


「バルトは、自慢の剣技をいかして剣聖と呼ばれる騎士団長となっており、配下のものが騎士団に属しております。

 ラースは、あの妖艶ようえんな魅力で皇帝以下のすべての帝室ていしつのものを骨抜きにして、後宮こうきゅうの女帝として君臨していると聞きます」


 フェリシアたちはまったく予想していない答えを聞いて唖然あぜんとするのであった。

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