30話.予想外な決着

「メラゾフィス!!

 お主、何をしてるのじゃ!!」


「フェリシア、騒ぐな。

 どうせ白黒つけなきゃ先に進めねーんだろ?

 なら、ささっとやろうぜ!!」


 メラゾフィスの不意打ちを非難するフェリシアを制止したクラウスは、右の太腿に刺さっていたナイフを投げ返した。

しかしそのナイフがメラゾフィスに届くことは無かった。

彼の右手に握られている真紅しんくのレイピアによって弾き飛ばされたためだ。


「我に勝てるつもりでいるのか?

 人族ごときが調子に乗るな!

 我が血器けっきアルフで、蜂の巣にしてくれるわ!!」


「血器ねぇ、吸血鬼さんが自分の血で作った武器…… っていうところか」


「なぜ…… 我が吸血鬼とわかったのだ!?」


「はぁ……

 その見た目で眷属やら血器やら言ってたらそう思わないほうがおかしいだろ」


「そうじゃな」

「そうですね」


 ここまで静観していたファルミナも思わずフェリシアと共にツッコんでしまった。


「わ、我を侮辱するなー!!!!」


 激昂げきこうしたメラゾフィスは、ドス黒いもやのようなものをだして自身を覆ったおおった

そして、メラゾフィスは左足を下げて血器アルフを持った右手を前に出す独特な構えをした。


「あぁもぉ!

 どっちもわらわの言葉を無視しおって……

 もう好きにせい!!」


 フェリシアが諦めの言葉を口にしたとき、メラゾフィスを覆っていたドス黒いもやの中からいくつかの黒い球がクラウスに向かってきた。


「!!!

 なんだこれ!!」


 クラウスは驚きながらもそれを弾き飛ばす。

そして、斬った感触があまりにも独特であった。


「もしかして…… 

 影…… なのか??」


「ほぉ、中々カンがいいですね。

 我ら吸血鬼が得意とする血液操作と影操作、その両方を味わいながら死ぬが良い!!」


 メラゾフィスは先ほどとは比べ物にならないほど大量の黒い球を放ちながら、クラウスに向けて突進を始めた。

クラウスはそれらを弾き飛ばしながらも目はメラゾフィスの姿を追っていた。

黒い球で目隠しをしつつ、最後は血器アルフでの突きがくると予想していたからである。


「クラウス、避けるのじゃ!!」


 突如響いたフェリシアの声。

クラウスが何事かと思ったとき、クラウスの背中には数本の大きな黒い杭が刺さっていた。


「ぐはっ……」


 片膝をついたクラウスにメラゾフィスが接近し、血器アルフによる無数の突きが放たれた。

クラウスの身体には無数の穴があき、大量の血を吹き出してその場に倒れ込んだ。


「はははは!

 これが実力の差というものです、身の程知らずの人族めが!!」


 メラゾフィスはその場に横たわるクラウスを足蹴あしげにしながら、高笑いをした。


「メラゾフィス、きさまぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 フェリシアが激昂げきこうし、大鎌デスサイズを振りかぶった。

しかし、大鎌デスサイズを振りかぶったその刹那、聖槍デュナミスの刃がメラゾフィスの身体を貫いた。


「な、なぜ……」


「甘かったな、お前が相手にしていたのは俺の幻さ」


「ばか…… な。

 お前にそれほど高度な魔術が使えるわけがない……」


「これを使ったまでさ」


 クラウスが胸元にあるネックレスを指さした。

これはクラウスとフェリシアが共闘を誓ったとき、フェリシアがクラウスに送ったものである。


「その影魔術ってやつ面倒そうだし、俺が魔術を使えるとは思っても無いだろうから、罠にかけてみただけさ!」


「わらわも見事に騙されたわい、まさかそれをここで使うとはな」


「フェリシアさま、どういうことですか?

 私にも何故こうなっているのかわからないのですが……」


 フェリシアは決闘の勝者がクラウスであると宣言したのち、メラゾフィスを治療しながら説明を始めた。

あのネックレスはどんな魔術でも一つだけ封印しておくことができ、好きなときに放てるというものであること。

フェリシアがクラウスに贈ったときに、クラウスは幻影魔術げんえいまじゅつ【カモフラージュ】を望んだこと。


「それを見抜けずスキを晒した我の負け…… ということですね」


「反則みたいな勝ち方ではあるから、また今度ちゃんとやりなおそうぜ。

 ただ勝ちは勝ちだ、今は約束通りに俺たち3人を隠れ里に案内してくれ」


 メラゾフィスは苦々しい表情を浮かべながらも頷いたうなずいた

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