20話.再会?

「あれがサ・イハテノ村か?」


「うん、たぶんそうだと思う。

 魔王に占拠されたままの状態のはずだから、そろそろ気をつけていこうね」


 アイオンたちはここまでの道中に、魔王の軍勢の恐ろしさを嫌というほど聞いていた。

周囲を最大に警戒しつつ村に近づいていくと、アイオンはある違和感に気づいた。


「村の周辺……

 魔王の軍勢どころか、生き物の気配が一切ないのは気のせいか?」


「それどころか、村の中にすらほとんど気配を感じないね」


「やはりファウストもそう思うか……

 どういうことだ??」


 占拠された村にたどり着いたが、村人はおろか魔王の軍勢や野生生物の気配すら感じ取れなかった。

そんな不気味な状況にアイオンたちは困惑していた。

気持ちを落ち着けるために木陰に入ったところ、さらに理解できない光景を目の当たりにするのだった。


「よぉ! アイオン、ファウスト。

 思ったより遅かったな」


 目の前にはクラウスが居た。

ただ、その隣にはいるべき人とは違う人が立っていたのだ。


「あれがクラウスの幼馴染というやつか?

 あまりにも遅いので、わらわは退屈じゃったぞ……」


 アイオンたちはクラウスとその隣にいる女性、その二人の会話をどこか現実離れしたもののように聞いていた。


「ク、クラウスなのだな?

 その隣の女性は誰だ?

 それにアントニー殿の姿が見えぬが……」


 アイオンの言葉をその女性が楽しそうに聞いているのを見て、クラウスは苦笑を浮かべる。

そして、その女性の頭を優しく撫でながらアイオンへと返事をした。


「こいつはフェリシア。

 この2年間の間に出会った俺の最愛の人だよ。

 アントニーは…… 色々あって死んだよ」


 クラウスの最愛の人の登場とアントニーの死亡を同時に聞くこととなった二人。

アイオンたちが呆気に取られていると、その女性が一歩前にでて話し始めた。


「クラウスよ、さすがに色々を省略しすぎじゃろ。

 仕方がない、わらわが自己紹介がてら説明してやろうかの。

 わらわはフェリシア、今代こんだいの魔王じゃ」


 フェリシアの言葉を聞いた二人は、一歩後ろに飛びのき身構えた。

しかし、とうのフェリシアはそんなことはお構いなしという態度であった。


「クラウス!!

 どういうことだ!

 何故お前が魔王と一緒にいるのだ!!」


 アイオンの怒声どせいにクラウスはめんどくさそうな表情を浮かべて返事をする。


「はぁ……、単純な話だ。

 俺は人族を見限ったみかぎった、ただそれだけのことだ」


「馬鹿なこと言うな!!

 そもそも俺たちは伝承にある世界の崩壊を回避させるんじゃなかったのか!!」


「人族に救う価値などない。

 そのことを俺は村を出てから、幾度となく実感した。

 お前達もそうだったはずだろ!」


 クラウスの言っている出来事が何を指しているのかは、アイオンたちにはすぐにわかった。

城塞都市ラッカードでのこと、王都での連続殺人事件のこと……

確かに事件に遭遇する度にたびにクラウスは人一倍苦悩の表情を浮かべていた。


「そして、おまえたちと離れていた間に決定的なことがあった。

 ここからもう少し北にいった山間やまあいに魔族だけが隠れ住む集落が点在していた。

 王国とその西に存在する帝国の間にあり、主要な街道からも外れていることで人族が寄り付かず、​隠れ住むことができていたらしい。

 ある日この村の村長がその集落を見つけ、襲った。

 魔族たちは人族と争う気がないため、素直に降伏した」


 クラウスが突然話し始めた話が何のことかわからないアイオンたちであったが、クラウスの真剣な表情は、最後まで聞かなければいけないのだと思わせるものであった。


「全ての魔族を捕まえた人族の横暴はそこから始まった。

 ただ魔族であるということだけで奴隷以下の扱いを当たり前のようにする人族たち。

 俺がこの村を訪れたのは、そんな時だった。

 その後は……、まぁ想像できるだろ?」


 クラウスは改めてフェリシアの頭を抱えると、聖槍せいそうデュナミスを2人に向けて言い放った。


「俺は魔王フェリシアと共に人族を滅ぼすことを決めた!

 この最愛のパートナーとともに魔族みんなが自由に暮らせる世界にして見せる!!」

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