第50話 百烈拳並みのパンチ

「いや、死んではいないぞ。仮死に近いが。」

「えっそうなの?それじゃあ何で僕たち会話したり動けるの?」


「思念体だ。今ゆずるが見ているものや聞こえているのもの全てが。」

「ふむふむつまり…どゆこと?」


「チッ感が悪いな、簡単に言うと本体とは別に夢の中で自由に動き回ってるって感じだ。」

「ああ、それなら解りやすいね。」

なるほど、葵のテリトリー内にいる時は仮死状態で全く時間が経過しないのか。だからその間は夢の中のような感覚で意識の共有はできているとそういう事だな。


「その通りだ!やればできるじゃねえか!」

「僕の心の中勝手に読まないでくれる!」


「いや、私が主である限りお前の思考はだだ流れだぞ。」


ちくしょう、いいチチしやがって。ちょとキツめのキャラなくせにめっちゃいいチチしやがって。こっちは18年間禁欲生活を続けてきた…


「やめろ!わざと卑猥な思考を読ませようとすな!」

葵が僕に百烈拳並みのパンチを繰り出してきた。

照れてるのか?


20発ほどくらった後、さらに疑問を聞いてみた。

「10発ぐらいで止めてもらえます?」

「つい。」


「ところで葵は何で僕をテリトリーへ?」

「組織の命令だ。まずゆずるを人質にとな。」


「ふふふ僕が人質かははは。」

「何がおかしい?」


「いや、ごめんごめんおかしいんじゃなくて嬉しいのさ。こんな平凡な僕がレイ君やこころと仲間のように思ってもらえて人質としての価値があるなんてさ。」

「人質にされて喜ぶ奴も珍しいぞ。」


「だって僕なんてレイ君と知り合わなかったら無価値な男なんだぜ、っていうかずっと無価値な男だったんだよ。」

「……」


「それが今や価値が暴騰中だ。嬉しい限りだね。」

「例え命が狙われてもか?」


「仲間の為に死ねたら本望だね。今までのボッチな人生と比べたら。」

「……」


「それで?僕は人質になってどうなるの?」

「2人をおびき出す餌として、時期がきたら磔にされ、火あぶりと水攻めを交互に行い、死ぬ一歩手前でおしっこをかけて溺死させる手筈になっている。」


「……マジ?」

「マジ」


「……残酷過ぎない?」

「残酷過ぎだな」


「…もうちょっとまからない?」

「まからない」


いやだあああああああああああ、絶対苦しいやつじゃんんんんんんんうわああああああああああいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

僕は床を転がった。いつもより倍の速度で転がりまくった。


「本望だったんじゃあないのか?」

「そんな最後、全然本望じゃねー!」


「ゆずる見苦しいな。」

「そりゃあ見苦しくもなるさ!おしっこかけられるんだぞ!火あぶりと水攻めだけで十分残酷じゃん何で?」


「ん〜アキラの趣味…悪趣味だとしか。」

「アキラ?アキラって美少女!」

僕の目が輝きだした。


「いや、ガチムチのおっさん。」

「ド変態じゃんかよ!一瞬美少女だったらという一筋の希望を見出しておいて!」


「いや、ゆずる美少女のならいいのかよ!」

「もう、葵に頼むしかない。頼む最後のおしっこは葵がかけてくれ頼む!」

僕は必死に懇願した。


「おい、そこはおしっこのくだりは無しにしてくれと頼むところだろう!」

「さっき、まからないって言ったのはそっちだろう。それならばガチムチのおっさんにおしっこかけれられるよりは、気のおけないツッコミスト葵に最後の介錯におしっこかけられたほうがマシだと思う僕は正常だと思います。」


「あいにくだが、今回の作戦には自称室長兼特攻隊長である私にも権限はない。いくら拝まれようともな。そしてそんな趣味もないしツッコミストでもない。」

「えっ自称なんだ、室長兼特攻隊長って。じゃあ、そんな葵に僕の最後のお願いを聞いてもらいたい。」


「上から目線が気になるがその願いによるな。」

僕は今までの取り乱しっぷりから装いも新たに葵の目をじっと見つめながらお願いを伝えた。


「僕と友達になってくれないか?」

「は?」

葵は驚いた顔をしてほうけている。


「えっそんなにおかしい事か?」

「おかしいだろう、敵に友達になってくれだなんて。」


「葵は敵なのか?本当に僕のことを敵だと思っているんならこんなに僕の会話に付き合ってくれるほど優しくないでしょう。だから葵は任務として忠実に仕事をこなしているだけで僕の事は悪からず思ってくれているんじゃないかなと。」

「まあ確かに悪くは思っていないが…別に好きでもない。」


「うん、だからまずは友達から始めよう。」

「ごめんなさい。ゆずるはタイプじゃないの。」


「即終了〜〜〜〜。って別に告白じゃないから、友達…仲間になろうよって事なんだけど。」

「私に組織を裏切れというのか?」

葵は怖い顔をして睨む。


「別に組織を裏切って、こっちの仲間になれって事じゃなくて組織に属していても僕と仲間になるのはいいんじゃないって事?」

「それは別にいいが、私と友達になろうがお前に対して処刑を止める権限や土壇場で助ける気はないからな。」


「そりゃあもちろん仲良くなってあわよくば土壇場で助けてもらえるかもしれない、土壇場で仲間を裏切って僕を助けてくれるかもしれない、そしてさらにあわよくば僕の18年間を守り続けたものを奪ってもらえるかもしれないなどの淡い気持ちはあった事は否定しないけど。」


「打算だらけ!しかも淡すぎない希望!むしろ濃すぎてむせる!」

「そんな僕ですがよろしく!」

僕は葵に右手を差し出した。

いい笑顔で。


18年間を守り続けたものを奪ってもらえるかもしれないと呪いに近い念を込めて右手を差し出した。

「まあ、全然よろしくされたくないが、お前が磔に処されるその時までは友達になってやってもいいぜ。」

葵が僕の手を取りニヒルな笑みを僕に向けた。


「ありがとう、葵。」

僕は葵にいつまで握っているんだ!とツッコまれるまで握り続けた。ニギニギナデナデとさすり続けた。堪能した。さすが僕の友達だ!そんな友達といつまでも一緒にいられたらいいな。


百烈拳並みのパンチをくらった。


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最終話まで残り5話…

今日はもう1話17時に投稿します。

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