第49話 意外にボリュウムがありました

「チッくそ!」

オレは近くの箱に八つ当たりのヤクザキックをした。


「レイさん落ち着いてください。」

「油断した。まさか能力者が政府に加担してるなんて。」


「能力者?私たちと同じように異世界人ではなくて?」

「もし俺たちと同じ異世界人ならオレに分からないはずはない。いるはずもないしな…」


「じゃあ今のゆずるを強奪していったのも。」

「そうだ、たぶん空間系能力者だな。別次元のテリトリーを持つ能力だ。そうでなければオレに感知できないはずはない。」


「ゆずるは空間に取り込まれて連れ去られたと。」

「ああ、そうだ。」


「じゃあ当分は身の安全は保障されているんじゃないですか?」

「ああ、暗殺者のスキルだから殺すつもりなら今殺されていただろうな、ゆずるは。」


「私たちには一撃では難しいですからね。」

「ああ、油断してもオレたちなら対処できるからな。だからゆずるを狙ったというのもあるだろう。」

オレはイライラしていた。

自分の不甲斐なさに。


爆破されて5日経っているとはいえ、そんなにすぐには行動を起こさないだろうと思っていたからだ。


油断した?気の緩み?そんな物はオレには無い。無いつもりだったのにゆずるが奪われた。


すぐには殺されるわけはないとはいえ、あの空間に飲み込まれていく時のゆずるの顔を見たら…

くそっ!


「レイさん落ち着いて。今の私たちに選択肢は少ないけどやれる事はやっておきましょう。」

「ああ、そうだな。ありがとうこころ。」


「それにゆずるなら、逆に相手の方と仲良くなっているかもしれませんよ。」

「はは、確かに!あいつの適応力とボケで仲良くなるかもな。」


「でも、ゆずるのボケはしつこいところがあるから怒られているんじゃあ、ふふふ」

「確かに。覇王の舞なんか目の前で踊ったら殴り殺されるぞ。」

お互いに笑いあい心を落ち着かせた。


「よし、じゃあオレ達の出来る事をやろう。」

「はい、行きましょう。」

オレ達はその場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで特攻隊長兼キャビンアテンダントの葵はどうして僕を?」

「誰がキャビンアテンダントだっつの、しかも会って直ぐに呼び捨てかよ!」


「じゃあ何てお呼びしたらいいんですか?」

「ん〜〜美馬葵だから、んんんんん美馬葵様かな。」


「…何のひねりもないじゃないですか、。じゃあ美馬葵だから略してミマジュンでどうですか?」

「ジュンはどこにも無かったけど?それなら葵様でいいだろ?」


「わがままですね、わかりました。ジュンジュワーで略してジュンジュでいいですね。」

「もうすでに美馬葵ひとつも入ってない!お前がジュンジュワー言いたいだけだろ!」


「カルシウムか足りて無いようですね。はいまたカルカル。」

僕は素手でポケットからカルカルを鷲掴みして渡した。


「いや、素手はちょっと。不潔だし。」

ジュンジュワーは僕の手ごと払いのけた。


「ああ、もったいない。」

僕はジュンジュワーが払いのけて転がるカルカルを追いかけた。

そして拾い、食べた。


「もういいい、葵でいい。特別に呼び捨てで許してやるよ。」

「サンキュー葵。ワイロを渡した甲斐があったわ〜。」


「いや、カルカルのワイロなんか効いてないけど!あと、速攻タメ口〜〜。」

「まあ、同い年ぐらいだからタメ口でいいじゃんな、葵。」


「お前攫われといてよくそんなグイグイくるな。」

「自分不器用なもんで。」


「平凡な顔の不器用な奴はそんなに口回らないと思うぞ。」

「平凡な顔関係なくない?あと僕の事もゆずるさんでいいよ。」


「そこは呼び捨てでいいよじゃねーのかよ。何気に敬語呼びさすな!」

「君はなかなかいいツッコミをしているね。僕の専属ツッコミストとして雇われないかい?」


「ツッコミスト自体に価値が見出せない!ノーバリューだよ!」

「me too(私もです)」


「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

無言で見つめ合う二人。


刺されるゆずる。


こうして不毛な会話劇に終わりが訪れた。


「もうちょっと手加減してくれません?葵さん。」

「お前がしょうもない事ばかり言うからだろう。」

まあ、すでに刺された箇所はふさがっているが…

っていうか今僕どういう状態?


「どういう状態だ?って顔だなゆずる。やっと説明するぞ、よく聞け。」

「はい!」

とりあえず邪魔をしないようにいい返事をしておいた。


「まずこの空間は俺のテリトリーだ。このテリトリー内は時間という概念はない。だから生命活動を行う事はできないんだ。」

「えっでも僕動けてますやん?生きてますやん?」


「中途ハンパな関西弁はやめろ。ゆずる、手を胸に当ててみろ。」

僕は躊躇した。

手がプルプルしてきた…

でも葵がいうんだからしょうがない。

意を決して震え抑えながらも、手を胸に当てた。



葵の胸に。


「このクソガキャーーー誰が俺の胸に手を当てろといったんだ!自分の胸に当てろ!」

また刺された…


「やっぱり、血が出ない。傷もふさがっていく。」

「そうだ。もうわかるなゆずる。」


「僕はもうすでに死んでいる〜〜〜〜〜〜〜〜」

そんな胸に7つの傷を持つ男に言わさせられたような

セリフがこの空間にこだました。


…まあ時間の概念がないので実際は比喩ですけどね。

あと、意外にボリュウムがありました(はーと)。



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最終話まで残り6話…

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