友情のゆくえ

「ぼくのおばあちゃん、おもしろいだろう。お取り寄せグルメとかペットボトルとか巨大植木鉢とか、変な事ばかり言うんだ」


秋の夕暮れ時、二人並んで歩いている。


「ふふふ、でも、昔の紙の本によく出てくる話だよね」

「へーっ、六郎は紙の本を読むのか。ぼくも時々、電子マンガは読むよ」

「紙の本が好きなんだ。毎晩たくさん読んでる。巨岩マンションには、山ほどある。図書館だからね。君も本を借りに来ればいいのに」

「そうだな。紙の本は読んだことないや。六郎は物知りでおもしろいから、一緒にいて楽しいよ」

「ぼくは、ずっと6年生のまんま。6年生の間だけ君の友だちさ」

「卒業まで、まだ半年ある。そんなこと言うの早いって」

「そうかもね。ところで君のおばあちゃんは、ぼくが人間だと思っていたのかな。ゆで卵食べてと言った」

「桜町小学校には各学年5人ずつ、クラスメートに人型ロボティクスが混じっている。昔の人だから、おばあちゃんにはわからないよ。本当は巨岩マンションじゃなくて、図書館付の人型ロボティクス研究所だけどね。ああ、やっぱり嫌だ。六郎は親友だ。中学生になっても、まだまだ六郎と一緒に遊びたい」

タコのように口を尖らせる。


「ダメだよ。モラリティルールを破ったことが所長にばれると、リセットされてしまう。ぼくがこれまで読んだ本も君との思い出もすべて消えてしまう。中学生になれば、クラスには中学一年生の人型ロボティクスがいるから、君はそいつと仲良くすればいいさ」

「六郎がいい。見た目も綺麗で大好きだ。それじゃ、来年の4月にこっそり巨岩に忍び込んで六郎を盗みに行くよ。一度、研究所の内部にも入ってみたいと思っていたんだ」


六郎がクスクスと笑いだす。


「君って変だね。20年ぐらい小学6年生やっているけど、そんなこと言われたのは初めてだ」

「もし、所長に見つかったら、ぼくもロボティクスにされちゃうかな」

「さあ、それは小学生のぼくにはわからない。送ってくれてありがとう」


赤くにじんだ空の下で、巨岩はどこまでも黒い。

六郎の姿が吸い込まれて行くように見える。


「バイバイ、また明日」

              了




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武蔵野巨岩ラボラトリー オボロツキーヨ @riwa

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