第20話 僕の愉快な幼馴染たち

ユサユサと体を揺すられる感覚に、うつろながらも目が覚める。


目の前には夕愛ゆあが不安そうな顔でこちらを覗き込んでいた。


<だ、大丈夫......?>


「ご、ごめん、夕愛の新しい制服姿があまりにも可愛くて、気を失ってしまったみたいだ」


<そ、それは嬉しいけど急に鼻血を出して気を失っちゃうからびっくりしたよ......>


「ははっ、心配かけてごめんね。ところで今何時?」


<あー......えーっとねー>


夕愛がチラッと目配せした時計の方を見やる。


その視線の行く先に僕も自分の視線を添わせる。





入学式が始まる時間だった。



*****



鼻血まみれだったであろう顔は、僕が気絶しているうちに夕愛が拭き取ってくれていたらしく、改めて準備することもなかった。


そういうわけで僕たちは急いで学校に向かったけど、残念ながら当然、入学式には間に合わなかった。



携帯端末を見てみると、きちんと入学式に出ていたらしい幼馴染たちから状況確認のメッセージがいくつも届いていた。

けど、目が覚めてから自転車を全力で漕いで学校まで来たこともあり、端末を確認したのは教室に入ってからだった。


僕と夕愛が学校についたときにはすでに入学式は終わっており、いくらかの親御さんたちと生徒たちが教室に向かっているところだった。


校舎の前に張り出されていたクラス分けの紙によれば、なんと嬉しいことに、僕と夕愛、理人りひとはるかも同じクラスだった。

6クラスもあるのに、本当にラッキーなことだ。


入学式を終えて体育館から教室に移動する生徒たちの流れに混じっていれば、遅刻したこともばれないかも、なんて淡い期待をいだきながら自分たちの教室に入ると、すぐに幼馴染の2人が並んで僕たちの傍に歩み寄ってきた。



「おいおい2人とも、高校の初日から遅刻とはどういう了見だぁ〜?」


理人りひとこと、天使理人あまつかりひとがニヤニヤしながら話しかけてくる。


「いやぁ、朝から夕愛の新しい制服を見たらあんまりにも可愛すぎてさ。鼻血出して倒れちゃったんだよね」


視界の端にちらっと映る夕愛の表情は照れたように俯いている。


ここまで事実を赤裸々に語られると恥ずかしさもあるのかもしれない。

まぁ僕にとっては夕愛の素敵さの片鱗を語ることに、一抹の羞恥すらも感じることはないんだけどね。



「うへぇ。相変わらず知夜はそういうこと恥ずかしげもなく言うよなぁ」


「ほんとだよねぇ。けど、夕愛ちゃんが羨ましいなぁ。りっくんはそういうの、全然言ってくれないし〜」


理人にジトッとした目を向けながら、隣にいた神楽遥かぐらはるかが会話に割って入る。



「ねぇねぇ、りっくん。遥の制服姿はどうかな? 可愛いかな?」


チラッチラッと理人に目配せをしながら感想を求める遥。


それにつられて僕も夕愛も理人の顔色を伺うと、理人は目を逸らしながら「悪くないんじゃね?」なんてのたまう。

男らしくない物言いに僕ら3人そろってジトッとした視線を送ってあげると、少し焦ったように言い返してくる。



「いやいやいや、俺はそんなキャラじゃないっていうかさ、そんなこっ恥ずかしいことをシレッと口にする知夜が変なんだって!」


「変とは失礼だな。俺は思ったことをそのまま言ってるだけで普通だよ。理人ももっと素直に言葉にすればいいのに」


「そうだそうだー! もっと素直になれ〜! ちなみに知夜くん的には遥の制服姿はどんな感じ?」


「ん?いい感じに似合ってるんじゃない?」


「わー、適当〜。じゃあ夕愛ちゃんの制服姿の感想は?」


「それはもう美の女神も裸足で逃げ出す素晴らしさだね。派手とは言えないこの学校の制服を身にまとっているだけにも関わらず、その姿は太陽の光に照らされるように輝いて見えるし、おろしたての大きめ制服のおかげでナチュラルに萌え袖になってる可愛らしさは筆舌に尽くし難くて、それから......「「おっけー、わかった、ストップ」」......え、もう?」



僕の夕愛語りを途中で止めるように理人と遥が口を挟んだ。


「全然『もう』じゃないし、遥のときと反応違いすぎるでしょ。いやいつものことだし、別にいいんだけどさぁ」




僕の隣にいる夕愛はさっきまでよりさらに顔をうつむかせて、すでに表情は見えない。


ま、目が合ってなくて直接心が読めなくても、こんなあからさまな様子を見せてくれたら、今は恥ずかしさのあまり顔があげられないくらい照れてるってことくらいわかる。


「くうぅぅっ、照れてる夕愛もまじで最高にキュートだね!」



そう言うと、さっきまで固まっていた夕愛が、ポコっと弱く僕の肩を軽く殴った。



「「はいはい、ごちそうさまです」」

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