第19話 キミの高校の制服姿

ふぅ......。朝からひどい目にあった。

いや、ある意味めちゃくちゃ素敵なご褒美みたいな展開だったんだけどさ。


夕愛を起こしに来たのに結局、僕が一旦帰宅を余儀なくされるなんて......。


しかもおろしたての制服が無残なことに......。予備を買っておいて、本当によかった。


夕愛にバレてないよね?

僕の男としての尊厳はまだかろうじて守られてるよね?


まさか、触られてもないのに、キスされただけで出してしまうなんて......。

それもこれも、夕愛が朝から可愛すぎるからだめなんだ。


あれから夕愛とは目線を交わらせないようにして急いで家に帰ってきて着替えて、また夕愛を迎えに来た。


だから多分、ユウにはいろいろばれてると思うけど、夕愛にはバレてない。と信じたい。


これも夕愛と目があうときには考えないようにしないとな......。


夕愛との朝のいちゃいちゃタイムが終わって、僕が着替えている間に、夕愛は朝ごはんを食べだしていた。

もう一度夕愛の家におじゃましてしばらくは、朝ご飯のパンと牛乳をのんびりモキュモキュと頬張る夕愛を眺めて幸せな気持ちに浸っていた。


そして今、食べ終わって、制服に着替える前にシャワーを浴びてくるということで、絶賛待ちぼうけを食らっているところだ。


うーん、起こしに来たときは、夕愛が準備にかかる時間も考慮してかなり早めに来たはずなんだけど。

気づいたらもう結構遅刻ギリギリの時間だ。


本当ならいつもの2人・・・・・・とも一緒に初登校を決めるつもりだったのに、まったく夕愛め。

可愛すぎるというのは本当に罪だ。


ついつい時間を忘れていちゃついてしまったじゃないか。


まぁ、2人にはさっきメッセージアプリのCHAINチェインで先に学校に向かってもらうように伝えておいたからいいけどさ......。






ややあって。


ガチャッ。


シャワーをでて自室に向かった夕愛がリビングのドアを開けた。



..................?



柊さんお義父さん奏恋さんお義母さんもすでに仕事にでかけていて、今、家の中には僕と夕愛しかいないはず。

だからこそ、さっきドアを開けたのは夕愛だと確信できたんだけど......。


さっきから半ドアの状態で一向に姿を見せてはくれない。


ドアの中央部分には縦にすりガラスがあしらわれているので、その先にいる人のシルエットがぼんやり見える。

間違いなく夕愛。


すりガラスのシルエットだけで可愛いなんてまじで天使だわ。


「おーい、夕愛〜?どうしたのー?」


・・・。


しばらく待っても入ってくることはなく、声を出せない夕愛から返事が返ってくることはもちろんない。

その代わり、いつもの何かを書く音が聞こえてきた。


理由はよくわからないけど、たぶん、いつも家の中で使っているお絵かきボードに何か書いてるんだろうな。


あの先端が磁石でできたペンで文字とか絵とかを書くとボード側の砂鉄が反応して書けるやつ。

ボードの下のレバーを左右に動かしたら消せるやつね。


紙とかペンだと書くたびに消費しちゃうけど、あれなら何回でも使えるから、夕愛は家の中ではあれを使ってコミュニケーションを取っている。

外に出る時はわりと邪魔なので普通のメモ帳を持ち歩いてる。


まぁ、僕とは目が合えば意思疎通できるんだけどね。



夕愛が書き終わるまで待っていると、すっと半ドアの隙間から文字が書かれたホワイトボードが差し出された。

手首から先とホワイトボードだけが見えている状態。


その白い板には、黒い磁石で


そこには。


『セーフクすがた、初めて見せるから恥ずかしい><』


と書かれていた。


なるほど、着替えてきて初めての制服姿を僕に見られるのが恥ずかしいと。


なんじゃそりゃ!

カワイイの権化!カワイイの暴力!作られていない天然のカワイイ!カワイイは作られていない!?

書いてる内容はもちろん可愛い。丸っこい文字も可愛い。差し出された手首から先も可愛い。

うーん、世が世ならこのシチュエーションだけで人が萌え逝くだろうな〜。

さすが僕の夕愛だ!




........................ふぅ。落ち着け僕。

このテンションで夕愛の制服見たら、僕は鼻血を出して気絶してしまうかもしれない。


夕愛を遅刻させないために、ここは冷静に。ステイクールだ。


よし。


「大丈夫だよ。心配しないで!夕愛はどんなかっこしてても、世界一かわいいよ!何を着てても、まだちゃんと見たことはないけど多分何も着てなくても世界一だよ!」


夕愛は、僕のその言葉にビクッと反応したかと思うとボードを引っ込めて、ゆっくりとドアを開けた。

そして、恥ずかしそうにうつむきながらリビングに入ってきた。


そこに天使がいた。いや、おわした。


あ、誤解しないでね、天使あまつかじゃないよ、天使てんしね。

理人のことじゃないからね。


僕らの学校の制服は特段変わったものってわけじゃない。

男子は深緑のブレザーに同色のスラックス。

女子は同じく深緑のブレザーに、赤と深緑のチェックのスカート。


どこにでもありそうな制服。


でもそれを着ている素材夕愛があまりにも眩しく輝いているからだろうか。


初めて見た夕愛の高校の制服姿は、まるで地味な制服太陽夕愛に照らされるかのように、眩しく見えた。


成長期だからと大きめのを買ったからか、新品でまだ自然に萌え袖になって指先だけが見えている感じとかは少女そのものなのに、これまでの中学の制服に比べてなぜか少し大人っぽく見えるのはこれいかに。

やばい、ニヤケが止まらないし、可愛すぎて顔がアツい。

というか、物理的に顔に血が上ってきてる。鼻血出そう......。


いやらしさで言えばさっきまでのベッドでの格好の方が上のはずなのに......。




あまりの可愛さに僕が言葉を発することもできずにワナワナしていたからだろう。

不安そうに上目遣いでこちらを見て、<どう......かな?似合う......?>と思考を送ってこられてしまった。


たぶん目が合った瞬間、その刹那で全部の感想が伝わったんだろうね。

はい、首かしげ上目遣い+真っ赤な顔+萌え袖のコンボいただきました。








僕の意識は、最後に自分が吹き出した鼻血を視界の端に捉えたところで途絶えた。


どうやらカワイイは人を気絶させられるらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る