第18話 私の最大のライバル
ポワポワしながらもなかなか知夜くんの腰から離れない私の耳に、これまた聞き慣れた、でも正直あんまり聞こえてきてほしくはない声が聞こえてくる。
「マスターも夕愛さんも、いつまでその体勢で見つめ合ってるんですか?」
知夜くんの端末から響くこの声を聞くと、別に嫌いってわけじゃないんだけど、ちょっとだけムッとしてしまう私がいるんだよね。
私よりも長い時間知夜くんの側にいて、私よりも役に立ってくれちゃって、私と同じくらい知夜くんに大事にされちゃってくれちゃっているこの子、ユウちゃん。
もうっ!確かに傍から見たら私達は見つめあってただけかもしれないけどさぁ。私と知夜くんの甘い朝のひとときを邪魔しないでほしいよまったくっ!
それに、本当はわかってるくせに、そうやって邪魔してくるの、本当に機械としてどうなの!?
「夕愛さん、私は、朝マスターを起こして差し上げてるんですよ!マスターが毎日1番最初に声を聞くのも、マスターが最初に話しかけるのもワ・タ・シ、なんですよぉ〜?」
知夜くんが掲げた端末の画面には、ユウちゃんがドヤ顔をしながら、私に当てつけるような嫌味ったらしい声でさらに私を煽ってくる。
手元にメモ帳がない私は、ユウちゃんに文句を返すこともできなくて、じーっと恨みがましくにらみつけることしかできない。
小中学校の間もずっと繰り返してきて、このやり取りもほとんど毎日のルーチンになっちゃってる。
知夜くんから、やれやれみたいな、それでいてなんだか小動物を愛でるみたいな生暖かい目で見つめられるのももはや日課。
<もうっ、知夜くんも、ユウちゃんになんとかいってよ!知夜くんの1番はいつでも私なんだよって!>
<あはは。もちろん、1番どころか夕愛は僕のすべてだよ!何よりも夕愛のこと大好きだし、大切に思ってるからね。だから、さ?ユウのちょっとしたおちゃめなジョークは許してあげてくれないかな?それで、ちょっとお手洗いに......>
<むーっ!......私も、知夜くんが私の全部だよ......それに知夜くんが大事にしてくれてるのもよくわかってる......でも、やっぱりときどき心配になっちゃう......>
<ぐ、ぐはぁっ!!!!か、可愛すぎる。それは可愛すぎるよ夕愛ぁ!!!>
知夜くんから流れてくる温かい気持ちと、それでも残る不安な気持ち、それにそうやって安心できない私の欲張りさとか、いろんな気持ちがない混ぜになって、瞳がうるうるしてしまった。
そのせいで、図らずしもあざとい涙目上目遣いをしてるみたいになってしまったみたい。
そんな私を見て、知夜くんがいやらしい気持ちになってくれたみたいで、ピンク色の感情が瞳を通じて流れ込んでくる。
知夜くんは鋼の理性を持っているみたいで、こんなエッチな感情を私に伝えてくれることはたまにしかないんだ。
だからせっかくだから、このチャンスにもっと知夜くんに好きになってもらえるように誘惑しておこう♫
<ねぇ、知夜くん。............我慢しなくても、いいんだよ?>
私がそう伝えた瞬間、知夜くんはばっと勢いよく横を向いて視線を切った。
咄嗟に目を合わせないようにして私に心を読まれないようにしてるんだ。
でも、無駄なんだ〜。
私が話してから目をそらされるまでの一瞬で、私のこと蹂躙する妄想してたの伝わってきちゃったんだもん。
ん〜!嬉しいなぁ〜。愛されてるのがすっごく伝わってきちゃうよ〜。
「ゆ、夕愛!これ以上は本当にだめだ!お義父さんのところにいってく......」
ぎゅっ。
目をそらしながらいつもより早口で話しつつ、私に背中を向けて部屋を出ようとする知夜くん。
私はその腕をぎゅっと掴んで、先の言葉を言わせないように、部屋の外に行かせないようにする。
「お父さんのところにいく」なんて許すわけないよ!
行ってどうするのか言われてるわけじゃないけど、どうせ知夜くんのことだから、「夕愛でエッチな気持ちになってしまいましたごめんなさい」なんて馬鹿正直にお父さんに話して怒られることで、いやらしい気持ちを落ち着かせようとしてるに決まってる。
それで知夜くんが怒られるのも嫌だけど、私と知夜くんの睦言をお父さんに知られるっていうのも恥ずかしくて嫌だ。
だからここはなんとしても行かせられないよ!
絶対に思いとどまってもらうために、知夜くんの腕を抱きしめる力を強くする。
数秒間そうして固まっていると、またユウちゃんが茶々を入れてくる。
「ゆ、夕愛さん......。そ、そろそろマスターのこと離してもらった方がいいかと......」
むっ。私と知夜くんがいちゃいちゃしてるのが気に食わないからって、離れさせようとするなんて、本当にこの子は機械としてやりすぎだよ!
「に、睨まれましても......。今だけは私の嫉妬とかではなく、なんと言いますか、マスターの尊厳のために申し上げているだけと言いますか......」
よくわからないことを言って煙に巻こうとしても無駄だよ。
知夜くんも私も、今日から高校生。
私はもう、これから朝のいちゃいちゃタイムは、高校生らしく、これまで以上に積極的に行くって決めてるんだから!
決意を表明するように、さらに知夜くんの腕を強く抱きしめる。
そうしてる間も知夜くんは「夕愛、もうやめよう?ね?ほんとに、お願いだから手洗いに行かせて」なんて言いながら私の腕を振りほどこうと軽い力を込めてもがいてるけど、本気で嫌がってるわけじゃないことは、目を見なくったってわかるんだから。
お手洗いはちょっとだけ我慢してもらって、この至福の時間をもっと堪能したいんだ♫
あぁ......知夜くん、大好きだなぁ。
もうそろそろ準備して学校行かなきゃだけど、この時間がずっと続いてほしいくらいだよ〜。
でも、このムラムラした気持ち、なにもないままじゃ収まらないよ......。
だから、これくらい、いいよね?
チュッ♡
私は顔を背ける知夜くんの頬に軽くキスをした。
それだけで幸せな気持ちがいっぱい溢れてくる。
あんまりにも幸せすぎて、触ってもないのに達してしまったみたい。これははやく下着を着替えなくちゃ......。
私がエクスタシーの余韻に浸っていると、キスのあと数秒間黙ってぷるぷると小さく震えていた知夜くんが、なおも目を合わせてくれないまま、つぶやいた。
「ゆ、夕愛。ごめんなんだけどさ。僕、一旦帰って着替えてこなきゃいけなくなった......」
そうつぶやいて私の腕を振りほどいたかと思うと、走って部屋、というか私の家から出て行っちゃった。
それで窓から見ると、知夜くんがちょっと前かがみな姿勢で、知夜くんのお家に駆け込んでいる姿が見えた。
???
え?知夜くんどうしたんだろう?高校初日だからって、何か着てくる服間違えちゃったのかな?
それにしても今朝も知夜くんはカッコ良かったなぁ〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます