『応報の果実②』



ガラティーン!


あれ?


ご主人様の声が聞こえる?


ガラティーンと呼ばれた剣は、かすかに聞こえた呼び声に気づく。

闇の中にたゆとうガラティーンの意識。

そのすぐ傍には、死にたくない、消えたくないという一心で我武者羅にしがみ付いた何かがある。


それは、アッシュと言う冒険者の魂だった。

イバラのように絡みつき、がんじがらめにして必死でこの世にしがみ付いている。



真っ黒な液体に、真っ黒な雫が落ちて、波紋を広げるかのように。

言葉が、闇の中に浮かんでは消えていく。






「テッド……。どうしてここに」



――テッド……?。

そうだ。テッドは、ご主人様の名前――!



「テッド。あなたはまさか、この剣を活かしてほしいなどと言う気ではないでしょうね?」




「ああ、そうだ。そいつのことは、オレに任せてくれないか……頼む」



ご主人様は、ワタシのことを助けに来てくれたの……?

嬉しい。


「そういう問題ではありません。この剣は、呪いの剣です。今、この冒険者の様子を見ればわかる筈」



呪いの剣……?

マサカ、ワタシの事?

そんなはずないよね?


「……え? あの剣だけじゃなくて、あの鎧も全部ガラティーンちゃんなんですか!?」



鎧?

鎧……?

ワタシは剣だよ?


「アプリコット、あなたも神官プリーストなら、あの者の状態がどのようなものか、少し探れば見えるでしょう?」


「……あ……!」


「気づきましたか? あの者はもうほとんど、アンデッドになっている。テッドの時と同じです。元に戻すためには、ツルギの核を破壊しなくてはならない」


アンデッド?

―――破壊!?



もしかしてワタシを壊すの?



駄目駄目駄目駄目駄メダメ!


嫌だ、消えなくない。

壊されたくない………。


なんとかしないと、なんとかしないと!



【――絡みつくイバラが、数を増す。

目の前の魂にさらに強くしがみ付く】


「そんな!」


「……な、なんとかならないのか?」


「なりません。それに元より、叩き壊す予定だった剣です。何の未練もありません、私には」


「ま、待ってくれ!」


「待ちません。もともと剣であるというだけで、滅ぼすべきものです」



滅ぼされちゃう。

滅ぼされちゃう。

あの赤い神官は、とても強い。

来ないでほしい、来ないでほしい!


【冒険者の身体が暴れ出す】



「これは、あの時のテッドさんと同じ……でも……」


「……そう。この呪いは『天恵』では解除できません。なぜなら解除した瞬間この冒険者が死ぬからです」




絶対に死なない。

絶対に――。



帰らなきゃ、帰らなきゃ、帰らなきゃ……!


絶対に死なない、死なない、死なない、死ねない!


――『絶対に死ねない! ボクワタシは、帰るんだ……。帰って■■■■■と結婚の契りをかわすんだ……一緒に幸せに、暮らすんだ!』



アレ?


今のは何?


【それは。

魂の根底に、唐突によぎった僅かな、強い想い。

でも誰の物か、ガラティーンには思い出せない】




「理由はどうあれ、壊す以外に選択肢はありません。迷う理由もない!」



うっ、このままじゃ本当に殺されちゃう。

どうしよう、どうしよう!



「――ガラティーン! 答えろ、そのままじゃ本当に死んじまうぞ! 生まれたばっかりで、死んじまうのか! 死にたくないって言ってたじゃないか!」



ご主人様……!?




「頼む。不甲斐なく奪われたおれが悪かった、これからちゃんと強くなる。だから戻ってこい! 『契約』でもなんでもしてやるからッ!」




――――『契約けっこん』!!?




【ガラティーンに刻まれたモノ、それはまさしく、『ネペタ』と言う少年の未練だった。

断片的にではあるけれど。


死にたくない、帰りたい、帰って結婚するんだ。



その衝動が、形となった物。

消滅する間際に、残った物だった。



それを色濃く受け継いだ剣には、テッドの放った言葉は、数百年待ち望んだ言葉だった。


例え形や立場は違えども――。


この魂はもう、ネペタではない。

ガラティーンなのだから




するすると、イバラが解かれ、まるで引きこもっていた部屋の扉を開け放って出るかのように。



むしろ、走って出て行くかのように】



――――――その時、テッドの周囲が不思議な光に包まれた。




そうして――。




「ホントですか!? ご主人様!」


「え? な……? おまっ……!?」



テッドの前には、真っ黒な婚礼衣装に身を包んだ小柄な少女が居た。


その首に腕を廻し、抱きつくような形で――。



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作者より。

ごめんなさい。


コムギちゃんの存在をすっかり忘れてたので、後日書き直します。

ごめん!

きっとコムギちゃんはいま、ドラゴンゾンビと……。

あ、ドラゴンゾンビのことも忘れてた……てへw


話の大筋は変わりませんがまた修正されると思いますので、気が向いた時に見直してください








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