『ガランティン古戦場 ③』



テッドとアプリコットが地面に叩きつけられる。


それでも、障壁が功を奏したこと。

何とか受け身を取れたこと。


それらが混ざり合い、ふたりは何とか無事だった。

アプリコットが治癒を行使すれば、問題ない程度だった。



しかし、前方からの直撃を受けたヘレニウムは、甲冑と武装の重量によって、吹き飛ぶということがなかった。


その威力を、逃すことが出来なかったのだ。


140センチ強の小柄な体躯は、今も、真っ黒な戦車に埋もれたままだ。

順当に予測すれば、軍馬の下敷きになったであろうと思われた。



「ヘレ!?」


「ヘレニウム様!?」


二人が、自らの傷より、ヘレニウムの心配をして声を上げる。




――……。




けれど。



暫くして。



突然。



一瞬にして、テッドとアプリコットに、凄まじい高揚感が沸き上がる。


「これは……示現の『天恵』!?」


その次の瞬間――。




爆発音のような、轟音が周囲に響き渡り。


戦車チャリオットが、御者を務める首なし騎士デュラハンと、積載する骸骨兵もろとも、宙へ吹き飛ばされた。


地から天へ。

一直線上の土砂が上空に舞いあがり、凝縮され、収束された衝撃波が、力の波となって突き進む。


衝撃を受けた軍勢が、粉砕され、上空から数多の破片が雨のように降り注ぐ。


その、土砂と残骸と、粉塵の中に立つシルエットが言う。


「……油断しないでください、戦車デュラハンロードは、『まだ』3両いますよ」


威力を至近距離で受けた戦車が、吹き飛ばされたまま、空中で崩壊して分解していく。


デュラハンが落とした真っ黒な大剣が、舞って、地面に突き刺さった。






テッドたちが感じた高揚感は、


広域化ラタ熾天使級セラフィム踊将示現ポテンシア

広域化ラタ熾天使級セラフィム歌将示現セレリータス

広域化ラタ熾天使級セラフィム美将示現リゴーレム

広域化ラタ熾天使級セラフィム楽将示現リジェネラティオ


以上4種の『天恵』によるものだ。


『筋力と魔力』『速度と器用さ』『頑強さと精神力』『自己治癒力』

それらを、熾天使級最大限で向上させる、強化系の『天恵』。



その効力はを受けたのは、テッドとアプリコットのみではない。

強化した身体能力で、戦場の地を踏みしめ、ヘレニウムは新たな1体に向かって、単身で突っ込んでいった。





テッドは呆れかえる。

「どうやら、心配するやつを間違えたな」


「そのようですね」


アプリコットが治癒を行い。

テッドは、真紅の風となって遠ざかるヘレニウムの背中を見つめながら。

ボロボロになっている大剣を放り捨て、落ちたデュラハンの大剣を拾い上げる。


そして。


「よし。なんか、急に体も軽くなったし、こっちも少しは頑張るか」


「はい」


テッドとアプリコットも、別の新たな『デュラハンロード』と向き合った。

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