『ガランティン古戦場 ④』



「いくぞ、おらあぁぁ!」




跳躍から――。




振り下ろされる、装飾の施された立派な漆黒大剣。





それに加えて。

ヘレニウムがかけた、示現ジゲン――神の示す経験をその身に帯びる、という概念で紡ぎ出される祝福の効果――が、テッドの身体能力を超人的に強化している。




そして、今しがた首なし騎士デュラハンから頂いた大剣は、かなりの業物だったらしく。



全ての要素が絡み合い、テッドの放つ一撃が、甲冑を纏う地竜を軽々と両断し、返す刀で振るった刀身が、戦車から離脱した首なし騎士デュラハンの大剣とせめぎ合う。




本来ならばあり得ないことだ。

駆け出し冒険者であるテッドは、知識が無いせいで実感に乏しいけれど。

普通に考えて、『デュラハンロード』はテッドが太刀打ちできるレベルの敵ではない。戦車を捨て、『デュラハン』と化した状態ですら、遥かに格上の存在なのだ。



なのに……テッドの剣は、首なし騎士デュラハンの大剣と拮抗している。

両者の力量が、つり合い、互角にまでなっている。




ぎちぎちと、鍔ぜり合う剣と剣。

ぶつかり合う剣と剣。


やがて。

僅かに攻め勝ったテッドの剣が、漆黒の甲冑姿を弾き飛ばす。



そこへ――。


「『権天使級アルケスディヴィヌス・ランシェア』!!」


アプリコットが行使できる最高威力の神聖術が、首なし騎士デュラハンもろとも、戦車チャリオットを射抜く。


――テッドが強くなったおかげで、アプリコットは防御や回復に回らなくてよくなり、その分、敵の殲滅に『天恵』を使用する余裕が生まれていた。




軍馬が破壊され、騎士は戦車と共に蒸発し、敗残兵と化した荷台の骸骨兵スケルトンはもはや、ただの有象無象に過ぎない。


強敵と思えた『デュラハンロード』は、もはや相手ではなかった。

アプリコットもテッドと同じく強化が施されている。

今、発揮された『神聖の天恵』も、アプリコットの通常を遥かに凌駕する威力だった。


その強さに、テッドは感心し――

「……凄いなアプリコット」



「いえ。凄いのはわたくしではありません……」

――『天恵』というものに通じるアプリコットは、自身に施された強化がどれほど凄まじいのかを実感していた。


アプリコットは彼方を見つめる。


「これは……ヘレニウム様が凄いのです」




そう。

アプリコットの視線の先。

二人の強化を施した本人は、既に残りの『デュラハンロード』を瞬く間に粉砕し、今は周囲の骸骨どもを、蹴散らし続けている。


なにせ、二人にかかっている強化は、本人――ヘレニウムにもかかっているのだから。

その暴れっぷりは、縦横無尽と言っても過言ではなかった。


「……あいつ本当に人間ですか?」

思わず敬語になってしまうテッド。


「失敬な! ――とはいえ、これほどの方だとはわたくしも思いませんでした」


「予想以上だったか」


「ええ。……広域化ラタの『天恵』すら、授かることは稀だというのに。……かけて下さった示現ジゲンの術は、全て熾天使セラフィムランクなんです。……これほどの権能を授かるなんて、もう、何かの女神が降りているとしか……」


降りている、と言う言葉に。

「もしかして、それハンマーの神様じゃないのか」



「……そんな神は居ません!」

思わず全力否定のアプリコットだが。


そんな冗談は後回しだ。

「とにかく追いつこう、このままじゃはぐれる」


「はい!」



そして

ヘレニウムの場所までを阻むアンデッドの群れに、二人は挑みかかった。



しかしもはや造作もない話だ。


それまで、苦労して骸骨どもをかき分けてきたというのに。

強化の術と、拾った大剣が、思いのほか強力すぎた。

特に大剣は、何匹切り裂こうが刃こぼれもせず、切れ味も鈍らず、剣と剣で撃ち合ってもヒビが入ったりもしない。


テッドは、その剣に満足を覚えながら。


ふたりは、何の苦労も無く、ヘレニウムに追いつくことが出来た。



そして、合流してみれば。


ヘレニウムを中心に。

その周辺一帯は、どんなアンデッドも存在しない。

荒野のようになっていた。


無論、すべてヘレニウムが一人で片づけたのだ。

能力が強化されているとはいえ、物理ハンマーだけで。



テッドたちが近づくと。

泥まみれの背中が、薄汚れた白金の髪とともに、振り返る。



「……道は開いておきました。古戦場の中心部へ行きますよ」


涼しい顔で言う。

丘のようになっている地形の、その中央に、悠々と立つ赤い神官が。



満月をバックにした、ハンマーと盾のシルエット。

テッドはその時に思った。

まるで鬼神、あるいは軍神のようだ、と。



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